オススメ度 | A |
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原作 | コミック |
ジャンル | SF、冒険 |
放送情報 | TVアニメ(2019年夏)/全12話 |
ストーリー | |
設定 | |
世界観 | |
感情移入 |
原作コミック未読。
TV放送にて鑑賞。一気見。
時代は、宇宙への往来が当たり前になった西暦2063年。
高校生8人と10歳の女の子が1人。
男女計9名が、学校の課題である惑星キャンプへ参加。
無事惑星に送り届けられ、子ども達だけの楽しいキャンプが始まろうとした矢先・・・
突如、予期せぬ事態が発生する──
こんばんは。時文です。
TVアニメ『彼方のアストラ』最終話まで観賞しました。
原作はウェブコミック配信サイト「少年ジャンプ+」で連載された漫画。
コミックは全5巻。
「マンガ大賞2019」で大賞を受賞。
「このマンガがすごい!2019」オトコ編で3位。
ジャンルは、SF、冒険に分類されてます。
原作は完結しており、アニメは最後まで描かれます。
サバイバルやミステリー要素もあり、ぜひ「事前情報なし」で見て欲しいですが、もう少し知りたい人は「はじめに」で少し内容に触れるので参考にして下さい。
先が気になる展開なので「一気見」がオススメです。
では、TVアニメ『彼方のアストラ』感想レビューをどうぞ。
- 「はじめに」は【ネタバレなし】
- 「感想レビュー」「おわりに」は【ネタバレあり】
目次
はじめに
1話あらすじ
惑星キャンプが高校授業の課題になるほど、宇宙への往来が当たり前となった近未来。
ケアード高校の生徒達は班編制され惑星キャンプに参加。
B5班9名は惑星マクパ向かい、無事に到着したのも束の間。
謎の球体が出現、全員が飲み込まれる──
次の瞬間、宇宙空間へ放り出されていた。
幸い、無人宇宙船を見つけ乗り込むが、そこは5012光年も離れた宇宙空間だった。
なぜこんなことに?
誰がこんなことを?
一行は、食料と水を調達できそうな惑星を経由し、帰還を目指す。
少年少女9名の宇宙漂流記の幕が上がる──
林間学習の一環のキャンプ地が他の惑星なのは驚きだが、キャンプ地の惑星マクパは自然公園に指定されるほど身近な行き先。
安全なはずの惑星キャンプが、一転5000光年もの彼方へ飛ばされてしまう。
1光年とは、光が1年間で進む距離(約9.5兆km)。
主人公たちが飛ばされた”5012光年”は途方もない距離。
しかし『彼方のアストラ』作品内では、避難できた宇宙船を使えば最短3ヶ月程度で移動できる距離。
#「最短3ヶ月」とは、補給を考慮せず移動のみの時間。
問題は食糧と水。
無人宇宙船には、食料等の備蓄もなく通信機も壊れていた。
生徒達は「5日間のキャンプ」の予定だったので、手持ちがない。
そこで、食料と水が確保できる惑星を経由し、帰還を目指すことになる。
作品の雰囲気やギャグシーンから想像するのは、ユルい展開。
1話の日常パートは過剰なギャグで引いてしまうかも(笑)。
が、ユルいどころか、真逆と言える苛酷な出来事が少年少女に次々と襲いかかる。
内容はSFサバイバル。
展開は本格SFミステリ。
登場人物とノリが「少年ジャンプ」らしいだけ。
宇宙に行くのが簡単に見えるのは、それだけ科学が発展しているということ。
宇宙船を簡単に扱っているように見えるのは、車のように運転に集中できる程、宇宙船が自動制御されているということ。
キャラクター、宇宙船、小道具、地球外生物のデザインは少し子供向け。
ギャグも子供向けで避ける人がいるかもしれない。
が、それは勿体ない!
(恐らく)子供でも見られるように、シンプルなデザインにしたのだと思われます。
他にも、SF初心者向けにもなってます。
大きな謎、小さな謎が上手く配置され、順番に分かり安く解明されていく。
それでいて、徐々に見えてくる全体像と、ますます深まる謎。
並行して、深まっていく仲間の絆。
物語の楽しい要素が惜しげもなく盛り込まれています。
それでいて、この手の展開でありがちな、ウジウジ、イライラする展開は極力抑えられ、とにかく明るく、良い意味でジャンプ作品らしい展開!
安心して、見て下さい。
原作コミックは5巻できれいに完結。
TVアニメは1話と最終話を1時間SPにして原作の最後までアニメ化。
#全12話ですが、実質14話分!これはうれしい試みですね!
途中で終わりモヤモヤすることもありません。
これから見るなら、是非一気見をオススメします。
KADOKAWAanime
感想レビュー (以降、ネタバレ全開です)
見たいモノが詰まった贅沢な作り
想像できただろうか、こういう展開になろうとは。
想像できただろうか、これほど心躍らされるとは。
想像できただろうか、このギャグ風なノリで感動するとは。
そして、鑑賞後、これほど清々しい爽快感を味わえるとは。
『彼方のアストラ』を1行で言うとすると──
子ども達男女9名が近未来の宇宙を舞台に、数々の困難と謎をクリアしていくことにより団結し「本当の自分」を見つける物語。
男女9名は高校生8名と10歳の女子が1名。
未成年の子ども達は、これまで誰かに頼り、親の価値観、他人の価値観を真に受け、自分というモノを形成、あるいは決めつけられていた。
それが宇宙遭難中、自分達ができることを手がけていく過程で、価値観を変えていく。
「本当の自分」を見つけることをメインテーマとしています。
少年少女は帰還するまでの間に様々な困難に直面する。
その困難が、SFサバイバルであり、親や知人との人間関係であり、それらを解決する過程で、子ども達の過去が語られ、サスペンスミステリー風に展開をしていく。
9人全員の過去が明らかになったとき、皆の団結は強固となり、物語も終焉となる。
宇宙SFあり、サバイバルあり、ミステリーあり、そしてラブコメまで!?(ああ、あとギャグも(笑))
友情、努力、勝利はもちろん、成長物語まで!
誰もモブ扱いせず、全員の過去を丁寧に描く。
これら全てを盛り込んで、単行本で5巻、1クールに収まる尺で描いていることが秀逸。
まさに見たいモノが詰まった贅沢な作品でした。
個性的なキャラクター
以降は物語の核心部分に触れています。
キャラクターも魅力的!
今回のようにトラブルに直面しなければ、一致団結しなかったと思われる個性的な9名の男女。
各人が、それぞれ様々な能力に長け、自分の能力を活かし、困難を克服していく。
見始めは、9人が優秀過ぎるのがデキすぎと思ってました。
科学者、メカニック、医者、生物学などなど。
が、それもそのはず、この9名は普通の高校生達ではない。
親がいずれ乗り換えるための体、器として作られたクローンだったのだ。
クローンを作るほどの地位と財力がある親たち。
#正直、カナタの親は財力あるように見えませんが・・・
それなりの実力を持つ親のクローンだから、どこか特化した能力があるのは実に理に適っています。
何かあったときに対応できるよう、同じ高校に集めていたのも納得。
しかもその高校の教頭は、クローンを作った親の一人。
ただ、倫理に反し”自分のため”だけにクローンを作る性格である親と同じ遺伝子。
その割りには、子ども達の本質は良い子過ぎるのが、少し引っかかったかも。
元々人は善人で生まれ、育った環境と得た地位と権力により、強欲になるということでしょうか。
確かに、序盤は皆、我が強かったわけですからね。
それどころか、中盤以降は9名全員が素晴らしい。
過酷な状況なのに、主人公達がとにかく前向きで明るい。
段々仲良くなっていき、協力して助け合い絆が深まっていくに従い、誰が刺客かますます分からなくなり、もう──
この中に刺客はいないのではないか?
刺客がいても心変わりしたのではないか?
いや、もう誰も刺客であって欲しくない!!
と思いながら見てました(笑)。
私は遭難なんてしたことないですが、厳しい部活や会社の新人研修に参加したことがあります。
大変な状況なのに、仲間と協力して前へ進む感じが楽しくなってくるのはよく分かります~
遭難はしたくないですが、見ていると羨ましくなるほどの経験ですね。
前向きな明るさが力強いメッセージ
終盤のルカとキトリーのセリフが象徴的。
自分じゃどうにもできない問題は、悩んでいる時間が勿体ないって、思うようになったんす。
それよりは、どうやったら楽しくなるかを考えた方がいい。何が起きても楽しんだもん勝ちなんすよ。
by ルカ (TVアニメ『彼方のアストラ』9話)
ザック:人格は遺伝だけで決まるものじゃない。
-中略-
キトリー:遺伝子なんて関係ない。誰と関わって、どういう経験をするかで、私は決まるのね。by ザック&キトリー (TVアニメ『彼方のアストラ』9話)
作品全体がこの2つの言葉に集約された力強いメッセージに溢れてます。
色々考えさせられるメッセージですね。
ミステリー仕立ての構成
そして、見てる側を惹き付けるのは、ミステリー仕立ての構成。
キャンプ前の学校事情は一切描かず、キャンプ初日から物語は始まる。
惑星マクパ到着直後、遠い宇宙空間へ放り出され、何がなんだか分からない内に帰還への冒険が始まる。
それはさながらミステリー小説のように、子ども達に起きた状況を知れば知るほど、なぜこのメンバーなのか、何をしようとしているのかを考える。
構成としては、大きい謎、小さい謎と散りばめ、小さい謎は割とテンポ良く解明され爽快感すら感じます。
配分と、「引き」を含め出すタイミングが上手い。
ざっと上げても次の通り。
- なぜこのメンバーなのか?
─選ばれた9名は意図的か偶然か
──9名の素性
───何か共通点があるのか
────親との確執を持っている?
────二人が養子?
─なぜ命を狙われたのか
──なぜ一斉に狙われたのか
──なぜ5000光年も先に飛ばす方法を取ったのか
───どうやって惑星アストラへ戻るか
──どうやって(元の生活へ)戻るか - 誰が刺客か
─誰の指示なのか
─刺客自身はどうするつもりなのか
─黒い球体の正体 - 世界の秘密(改変された歴史)
─地球ではなく惑星アストラ
──地球と惑星アストラの関係は?
─では地球はどうなった?
─なぜ真実を知らされていない?
これらを巧妙に謎として出しつつ、大きな謎解明へと近づき、あげくの果ては世界の謎まで・・・
①も確かに驚いたのですが、②の後に③があるのは、もっと驚きました。
①②により、主人公達は真実を受け入れ、「本当の自分」になろうと立ち上がった。
その上で③世界の歴史の真実を知る。
主人公達は、自分たちの出生だけでなく、教えられてきた世界の歴史にも欺かれていたのです。
しかし、一度立ち上がった彼ら彼女らは強く、世界の真実に向き合う。
「本当の自分」とは、内なることだけでなく、今いる世界も正しく認識して始めて正しい判断ができると言っているのです。
真実を知ることは恐い。
時には目を背けたくなることもある。
だが、ここまでの冒険で得た経験により、真実を知ることの大切さを彼ら彼女らは知っているのです。
①②の謎を解決していく過程で、③世界の謎に気付いていく展開は秀逸。
①クローンであることを騙されていただけでなく、③世界の歴史も欺かれていた二重のウソの上でこれまで生活していた主人公達。
①を乗り越えた主人公達に、③を知り、黙っているわけがなく、世界に真実を伝えていくのも自然な流れで胸アツ。
「真実を知り、本当の自分になる」を仲間9名だけでなく、世界中に広げたのです。
#ここを2クール目として描いても良かったのではないかと思う程
#でも、政治モノになってしまい、まるで違う作品になってしまうのでしょうね(苦笑)
とまあ、もう少し小出しにしても良いのでは?と思える程、様々な謎とサブテーマを惜しみなく盛り込んでました。
それでいてそれなりに人間性や心の闇に切り込む。
葛藤が少ないのと対立がないのが、かえって良いのかも。
選択と集中がお見事です!
これは本格SFミステリー!
さて、最後に『彼方のアストラ』は本格SFか?
私は、冒頭「本格SFミステリ」と言いました。
それと「宇宙を舞台にした人間ドラマ」でもあると。
「本格」がかかっているのは、SFではなく「SFミステリ」。
メインはSFではないと思ってます。
が、どうでしょう。
改めて考えると、きちんとSFしているのではないでしょうか。
リアリティを求めると、あらを探せばいくらでも突っ込み所が出てきます。
がそれは、本作に限ったことではありません。
「私の個人的な意見は」SFとして大事なのは、次の2点だと思ってます。
- 実在の科学技術の延長線上での技術を描く
- 発展した技術が直接的、あるいは間接的に社会に与える影響を描く
これらを踏まえ、現代社会に対する警鐘メッセージを発しているのが、良いSF作品だと私は考えてます。
とすると『彼方のアストラ』は──
クローン技術と記憶移植
人の記憶を別の人間に移す技術が完成間近、クローン技術と組み合わせ、不老不死を目論む人間が現れた。
そこまでいかずとも、オリジナルがもしもの病気や事故に備え、クローン人間を臓器のバックアップ用途とした。
『彼方のアストラ』ではクローン技術を違法とし、「ゲノム管理法」を制定し全国民のDNAを管理することにより違法クローンを撲滅しようとした。
これはクローン技術に繋がる科学技術が発展すると、国民のDNAを管理しなければ防げない社会になると現実世界へ警鐘を鳴らしている。
人工ワームホール
人工ワームホール技術で惑星移住が成功した。
が、人工ワームホールを使い、テロや暗殺も増えた。
平和な世界を目指し、人工ワームホールの技術を葬り去り、歴史を改ざんし、戦争が起こらない世界にした。
しかし『彼方のアストラ』は言う。
いくら平和でも、意図的に歴史を隠し管理された世界は正しいとは言えない。
また戦争が起きても良いと言っているのか?
いや、そうではない。
失敗や過ちも含めた人類の行いを知り、一人一人が考えた上で、同じ過ちをしない世界にしていくことを目指せと言っているのでしょう。
一部の人が管理統制するのではなく、皆で協力して困難を乗り越えていく。
皆で手を取り、分かり合えば、どんな困難でも乗り越えられると言っているのです。
それこそがカナタ達が、5ヶ月間の宇宙冒険で得た答えなのだから。
しっかりSFの要点を押さえています。
『彼方のアストラ』は歴とした本格SFではないでしょうか。
おわりに (『彼方のアストラ』とは)
最後までギャグシーンは面白くなったが(失礼!)
ギャグにより、雰囲気が重くならないし、高校生らしく空元気を出し楽観的に前へ進んでいるように見えました。
かなり重いテーマを扱っていながら、暗くなりすぎないのもギャグシーンのおかげ?
少しずつギャグの効果が分かってきたかも(笑)。
未知の惑星への探索や、近未来小道具など、もっと見たかった部分はあります。
科学的にも論理的に考えても突っ込み所もいくつか。
でも、それらのことを差し引いても、とにかく前へ進むカナタ達が潔く清々しい。
困難を乗り越える度に強くなる絆が眩しく、(いい大人が)羨ましくなるほど。
惑星アストラへ戻ってから、親との確執や、政府や世間との意見の違いもあったでしょう。
その辺りをもっと見たかったのですが、描こうとしているのは「本当の自分」を見つけるというテーマ。
そのテーマから外れる点は割り切り、惑星アストラ到着前、全員が「本当の自分」を見つけ受け入れた時点で完了したのでしょう。
『彼方のアストラ』が一番優れているのは、見せたいテーマを明確にし、余計な物を削ぎ落としたこと。
もっと詳細が知りたかったり、裏舞台を知りたくなるのは良作の証拠。
それらが別の機会でお披露目されるとうれしいですね。
原作は構成が少し違うようです。
原作は原作で楽しめそうなので、読みたくなりました。
原作読んで、新しい発見があれば、レビューしますね!
ではでは。
関連レビュー
原作のレビューも書いてます。
原作には、アニメではカットされた部分もあり、作品をより理解することができました。
良かったらご覧下さい。
