この世界の片隅に

アニメ映画【この世界の片隅に】感想レビュー 戦争とは表舞台にいる人だけが戦っているわけではない

この世界の片隅に
原作 コミック
ジャンル 戦争
放送情報 アニメ映画(2016年冬)/129分
オススメ度 AA-
ストーリー
設定
世界観
感情移入

原作未読。DVDにて鑑賞。

あらすじ

舞台は太平洋戦争中の広島。

主人公・すず(18歳)は、広島から呉へ嫁いでいく。
夫となる男のことも知らず、呉も初めて。

その上、太平洋戦争が激化していく・・・

はじめに

主人公・すずは広島の生まれ。
太平洋戦争、終戦1年半前の昭和19年2月、18歳のすずは、呉の北條家へ嫁いでいく。

物心ついたころから、戦争の気配はあり、青春時代を戦時下で過ごした女性の物語。

こう書くと戦争映画として捉えられがちですが、本作は庶民の日常生活を描いています。

戦いや政治、戦争に関わる人をメインにせず、この時代の女性が普通に生活している世界に、戦争がやって来たという感じです。

一般の人にとって、戦争は平和な日常を壊す出来事。
だからと言って、戦争を止めることもできない。
だからと言って、戦争から逃げることもできない。

戦時下という事実を受け入れ、生活していかなくてはならないのです。

主人公・すずは特別な人ではありません。
普通の女性。

普通の女性であるすずと、その家族の話が描かれます
それもリアルに。
決して娯楽向け映画として誇張されているわけではありません。

ゆえに私も含め、今時の派手でスピード感あふれた展開に慣れた方にとっては、地味な展開に見えてしまう。
が、きっとれが真実に近いと思わせるほどリアルに描かれ説得力があるのです

戦時下、戦争に直接参加していない一般の人々の生活がどのようなものなのか
戦争からどれだけ、そしてどのような影響を受けたのか
また女性達がどれほど強く生きてきたかを垣間見ることができる作品です。

時折、昔のことに思いを巡らせることがありませんか?
私はお盆の時期、TVで戦争を取り上げることもあるのか、知りたくなります。
そういう時に、ぜひご覧いただきたい作品。

夏に見たい作品がまた一つ増えました。
この作品がずっと語り継がれていって欲しいですね。

『この世界の片隅に』本予告
東京テアトル/ Tokyo Theatres Ch.

感想レビュー (以降、ネタバレしています)

誰もが知っている結末に向け淡々と描かれる

太平洋戦争時代の広島が舞台とくれば、誰もが知っている広島への原爆。
そして終戦。

その結末に向け物語は進んでいく。

この先起きることが分かっているだけに、作品内の人たちが住むところ、移動する先をハラハラしながら見る自分がいた。

けれども、最後まで見て分かったのは、作品で描いていることは戦争ではなく日常がメイン。

それだけに、つい原爆や終戦のシーンで過度なドラマを期待してしまうと肩すかしをくらうかもしれません。
(私がその一人です。刺激ある展開が当たり前だと思ってますね・・・)

描かれるのは日常、何があっても日常、それは切り離せないのだから

戦争が始まっても、戦火が広がっても、すず達の日常はさほど変わらない。
変わるのは配給がどんどん厳しくなること。
爆撃に備え防空壕を作ること。

まるで現代の人が台風や大雨に備えるようなノリを見せられ返ってリアリティを感じます。

呉にも爆撃が始まり、すずもそこでようやく戦争を実感したようだが、緊張のシーンは短く、しばらくするとまた日常へ戻っていく。

空襲警報が頻繁になったときも同様。
広島へ原爆が落とされた時も同様。

決して、他のフィクション作品のように、ヒーローが出てきたり無茶をする人が出てくるようなドラマを作ることなく物語は進んでいく。

確かに考えてみれば、一般人が軍や政府に問い合わせや文句を言ったとしても当時は取り合ってもらえることもないだろう。
一般人は逃れるすべがないので、耐えて毎日を過ごすしかないのだ。

戦争の悲惨さを伝えるために、死にゆく人や被害にあった人をメインにして描かれるよりも、通常の生活をすることすら許されない、しかも、その場へ住んでいる限り逃れることはできず、個人の力では何も変えることすらできない。

“これが戦争なのだ”ということをまざまざと見せつけてくれる。

この作品は何も押し付けない

“これが戦争”ということを見せつけながらも、決して何か強いメッセージを押し付けてくるわけではない。

すず達の日常を通して見える辛さはあるものの、誰も、戦争や政府、ましてや敵国を批判していない。

淡々と身の回りに起こった事実を見せるだけで、あとは見る人に委ねているのです。

だからこそ見ている側は、作品で描かれたことを素直に受け入れることができ、すず達登場人物に感情移入でき、自分や家族に重ね合わてしまうのではないでしょうか。

アニメだからこそ直視でき、アニメなのにリアリティを感じる

私はいい大人ですが、戦争の悲惨さを伝えるドキュメンタリーを見ると、あまりもの悲惨な映像に・・・
「もういいですいいです。悲惨さはよくわかりましたから、もういいです」
という気持ちになってしまいます。

ところが、この作品では、温かい表現の作画に、逆に心を奪われ、直接的な表現がないにしても、悲惨さは充分伝わる。

初めて呉に空襲があったときの、山を越え戦闘機が飛んでくるシーン。
すずが書いたような絵での表現は、直接的ではないが頭に恐怖が広がるとても印象的なシーン。

すずが爆弾に巻き込まれるシーンでは、爆破シーンの直接的な表現はないが、すず主観のフラッシュバックのような映像。
すずの絵のようなイメージで描かれる晴美の手とすずの右手の関係。
被災後も頭の中がグルグルと回っている様子がとてもよく表現されて感動。

アニメの効果は日常生活にも。
温かい町並みや、活気ある市場は、実写だとみすぼらしくなりそうだが、アニメだと細部にまで目を凝らしてしまう。

家の中や、食事も同様。
実写や写真だと、質素・・・というイメージで片づけてしまいがちだけど、アニメで描かれると、「実はおいしい??」でも、すず達の反応で、「やっぱ、微妙なんだーー」なんて感情移入できます。

こと昔の話に限っては、ドキュメンタリーよりアニメの方が、事実を伝えるのに合っているのかもしれませんね。

「居場所」と「右手」

本作品では、“居場所”と”すずの右手”が非常に象徴的に描かれている気がしました。

居場所

すずはずっと自分の”居場所”を探し求めていた。
周作が黄色のタンポポを摘もうとしたとき止めたのは、遠くからやってきた黄色のタンポポがやっと自分の居場所を見つけ、育ったように思えたから。

爆撃が始まったのに危険を顧みず、迷い込んだと思われるサギを追い払ったのは、ここがサギの居場所ではないから。

女性は男性の家へ嫁ぐ事によって、住むところも苗字も変わる。
ましてや、すずはロクに話したこともない周作の家へ嫁ぎ、性格の全く違う義理姉・径子とも微妙な距離感。

周作とはケンカもするほど打ち解け?ようやく居場所を作りかけた頃、無情にも呉に爆撃が始まり生活は一変していく・・・

そして、その後は・・・

右手

すずにとっての”右手”とは。
すずにとっての右手は絵を書く右手
絵はすずにとって、子供の頃から、人とのコミュニケーションの一つになったり、困ったとき、迷ったとき、現実逃避の手段?までも。

同じ右手で、家事をこなし、嫁ぎ先ででの居場所を作ってきた

その右手を・・・

その残酷な出来事を乗り越えたすずは、とても強く、以降は泣き言は言わない。
ただ、終戦の日を除いては・・・

すずたち女性は、ずっと戦っていた

本作での女性陣は戦争や政府に対して強い文句どころかグチすら殆ど口にしない。
私はてっきり、すずたちは難しいことは分からないから考えないようにしているか、何を言っても変わらないからと諦めの境地に至っているのだと思ってました。

が、終戦の日、すずや径子の大粒の涙・・・

すずのセリフに「何でも使って暮らし続けるのが、うちらの戦い」というのがありました。

すず達は、戦争に勝つために、勝利を信じているからこそ、少なくなる配給、無残な被害、身近な人の死さえも堪えてきたのかもしれません。
いや、そう自分に言い聞かせていたのではないか。
だからこそ、敗戦を知った時、二人には今までの思いが溢れ出す。
涙と共に。

そう、この時代は、戦争に参加していない人達も戦っていたのだ。
これが戦争。

乗り越えた末に居場所を見つける

葛藤を経て、今のすずを、ありのままのすずを、受け入れてくれる周作に北條家。
ようやく見つけた、自分の居場所。
周作に感謝をしつつ、ラストのセリフに込められる

うちを見つけてくれて、周作さんありがとう

この世界の片隅に

おわりに (『この世界の片隅に』とは)

いや~~すごい作品でした。
アニメの力を見せてくれた作品でもありますね。

レビューでは触れませんでしたが、本作のもう一つの魅力は戦時下でも楽しげに、明るく、前向きに過ごす女性たちの姿です。

すずだけでなく、義理姉の径子、妹のすみ、戦況なんて関係ない、(いい意味で)戦争の行方なんて私たちには関係ないと言わんばかりに、楽しげに今を生きる女性たち。
戦争映画なのに笑うシーンの多いこと!

でも、やはり終戦の時には・・・

子どもの代表みたいな存在だった晴美。
子どもらしく?軍艦に興味を持ち、子供なりにこの時代に楽しさを見出している姿も、とても説得力がありました。

うーーん。
の様々な人の日常が垣間見れ、日常をメインに描いているのに戦争のことをとても考えさせられる、すごい作品だなーーというのが素直な感想。

そして、この映画が年配の人だけでなく、若い人にも見られているということを聞き、このような形で戦争が語り継がれるのは、アニメファンの私にとってはうれしい限りですね。

精一杯応援していきたいと思います。

オススメです!

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