原作既読。DVDにて一気見。
はじめに
原作は『十角館の殺人』を始めとする「館」シリーズで有名な
本格ミステリー作家・綾辻行人のサスペンスホラー小説。
私は原作既読です。
それどころか、大好きな作家の作品なので、
どのようにアニメ化されているのか期待半分、不安半分で鑑賞。
ところがそんな不安をかき消す、作品に漂う世界観、雰囲気がいい!
それでもって恐い!!
冒頭から、いかにも何か起きそうな雰囲気・・・
背景、建物、セリフ、そして音楽までもが何か得体の知れないモノに
包まれているかのような空間を、作品の中で演出している。
原作のイメージピッタリどころか、これ以上ないと思える程の世界観を醸し出しています。
原作は670ページもある長編。
じっくりアニメ化するとかなりの話数が必要となるが、テンポ良く構成。
しかも見やすく分かりやすい。
それでいて重要な場面を省略していない。原作ファンとしてうれしいですね♪
ラストシーンがかなりアニメオリジナルになっていますが、それを除けば概ね原作通り。
最初、アニメと聞いて、
小説ならではの構成や描写で描かれている原作がどうアニメ化されているのか想像できなかったのですが、
台詞回しや、思考シーンをとても自然にアニメ化。
全然違和感ないどころか、小説原作とは気付かないのでは??
綾辻作品特有の叙述トリックがどう表現されるのか不安でしたが、これまたうまい表現!!
(叙述トリック:小説形式自体をトリックとして使う。※詳細はネタバレになるので割愛)
こんな小説をアニメ化できるのなら、他の綾辻作品もアニメ化できるのでは??と期待。
鑑賞前のあなたへ・・・
本作はミステリー要素を含んだ惨劇系のサスペンスホラー作品。
グロいシーンが多々あり、苦手な方は気を付けて下さい。
私は原作既読で内容を知っていたので、文字で読んだショッキングシーンが
美麗な絵で再現されているのを見て、思わずうなってしまいました。
なんと言えばいいのでしょう。リアルです・・・よくできています・・・
よくまあこんな殺され方考えると原作読んだとき思いましたが、
それをまた見事にアニメ化した製作者に拍手。
ただし、見所はグロいシーンではなく、次から次へと出てくる「謎」です!
小さい謎から大きい謎、その謎が、ある”現象”へと繋がっていく、
違和感には理由があり、発する言葉には裏がある、
遮られたセリフは製作者の意図があり、途切れた思考の先にはヒントがある。
原作者とアニメ製作陣の緻密に計算された「ストーリー」を、「謎」を、楽しんで下さい。
さあ、あなたに”死者(Another)“は分かりますか?
全体構成 (以降ネタバレあり)
この作品は大きく2部構成
前半(1話~5話)
見崎鳴の正体を探る話
夜見山北中学3年3組に起き始める”現象”
後半
夜見山北中学3年3組に起きる”現象”の「調査・考察」と「解明」
以降は、しばらくは核心には触れていませんが、ネタバレしているので注意願います。
感想レビュー:前半(1話~5話)
夜見山北中学に転校してきた榊原恒一(15歳)は、
何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。
不思議な存在感を放つ美少女、見崎鳴に惹かれ、
接触を試みる恒一だが、いっそう謎は深まるばかり。
そんな中、予想もしなかった惨事が!
・・・・・・この”世界”ではいったい、何が起こっているのか・・・?
(引用:公式HPより)
描写、絵について
冒頭から雰囲気抜群!
原作で味わった世界観、雰囲気が見事に映像化されて、まずはそれだけでうれしい。
病院や学校の雰囲気。そうか、こんなに古くて「いかにも!」みたいな建物だったのか。
見崎鳴の机がボロボロなのも実際に絵で見せられると一目でわかる。
人形館の雰囲気は少し意外。こんなに雑然としていたとは。
もっと大きめの人形が大量に置いてあるのかと想像していました。
#店番のお祖母さんの方がずっと恐い・・・
でも、確かに文字だけでは伝わらない、人形のリアルで艶美な雰囲気が逆に新鮮!
そして忘れてはいけないのが”音”!!
不穏な空気になった時に流れる音楽。
重低音が効いてとてもいい!!(まじ恐い・・・)
ぜひ、よいスピーカー、ヘッドホンでの鑑賞をお勧めします。
(おすすめはヘッドホン。夜中に少し暗くして見るとより一層楽しめますよ♪)
キャラクターのセリフ、仕草について
アニメだとちょっとした仕草がとても分かり易い。
会話や思考が途切れるシーンがとても自然。
クラスメイトは鳴のことについて、忠告をしようとしている。
小説だと肝心のことを話そうとしたときに邪魔が入るのが、わざとらしすぎるが、
アニメではとても自然に表現、演出をしている。うまい!!
思考やセリフが遮られるシーンも、原作では何かありそうだと気付くのだが、
(わざと気付くように書いているのでしょうが)
アニメではとても自然に。
尺という制限上、小説より進行が早いのでヒントだらけに見えるのですが、
うまく分からないよう、でも少し引っかかるよう、絶妙の演出をしている。
故に、とても製作者側の意図通りにミスディレクションされているのが悔しい。
見崎鳴はミスディレクション?
この作品のポイント、特に前半が秀逸な点は、
実は「見崎鳴」というキャラクター自体がミスディレクションのツール。
※ミスディレクション:人の注意をそらす
見崎鳴というインパクトある神秘的で不思議な眼帯の少女。
見崎鳴の正体を追いかける序盤は、
そのこと自体が、他の違和感から目をそらせ、
本当に起きている厄災や、序盤からいると思われる死者(Another)のことに
意識が向かないようにしている。
また、一つの”現象”を追いかけるストーリーなゆえ、一本調子になりがちな展開を
見崎鳴の正体を探る過程を入れることによりアクセントになっているのである。
つまり見崎鳴は、導入部分で大切な、作品へ入り込むきっかけの対象であると同時に、
キャラクターだけでなく視聴者を真相から目を逸らすための存在なのです。
見崎鳴の存在は・・・
- 物語に引き込むトリガー
- “視聴者”と”登場人物”の目を逸らす役目
その辺りが上手いですね~~
というか綾辻行人作品らしいですね。
感想レビュー:後半 (5話途中~最終話)
以降は核心に触れています。くれぐれも鑑賞後にご覧下さい。
中盤からは、何が起きても不思議ではない兆し。
音楽が変わると、作品の空気が変わる。
空気が変わると、人や者が動くたびに、何か起きるのでは??
と身構える。
この緊迫感がたまらない。
死者の正体について
“死者”は三神先生。
死者が出ないおまじないは効かなかったわけではない。間違っていたのだ。
“現象”が始まる年、クラスの人数が増えて、机と椅子が1つ足りなくなる。
今年は始業式の時、机の不足はなかった。
よって「(現象が)ない年」だと思われていた。
が、5月に恒一が転校してきて机が一つ足りない状況に・・・
5月から「ある年」になったのではないかと皆が懸念する・・・
その結果5月から見崎鳴を”いないもの”としておまじないをすることに決定。
恒一が学校へ初登校したときに既にこのおまじないが始まっていたのは
恒一が転校した早々に入院し、登校が遅れてしまったから。
つまり、恒一の最初の入院もストーリー上、意味があったのです。
この辺の伏線の張り方が秀逸ですね。
さすがミステリー作家という言うべきか・・・いや綾辻先生お見事!!
話を戻して・・・
現象の真相は4月に先生が増えて、職員室の机が足りなくなっていた。
はたまたクラスの副担任になったということは、
クラスの先生の席も一つ足りてないとも言える。
#副担任だから基本的に同時に教室にいないことを上手く使っていますね。
そして、4月に見崎鳴のイトコ(本当は姉妹)が死に、”現象”も始まっていた・・・
25年前から続いている「災厄」で、きっかけは机が足りないと言う事なのに、
職員室で席が足りない事があれば、気付いて良いはず。
先生達のミスですね。
鳴も姉妹が死んだのだから”現象”を疑って然るべき。
ところが、教室の机が足りていたこともあり今年は「ない年」だと思っていたし、
大好きな妹が”現象”なんかのせいで死んだとは考えたくなかった。
つまり、恒一が転校生だと言うこと、は必然で、
鳴の姉妹が姉妹だと気付かれてはいけないこと、これも謎ではなく必然だったのです。
このあたりもミステリー作家ならではですね。憎い!
職員室での机の不足、鳴の姉妹の死亡。
気付いていれば、簡単にAnotherが誰か分かったはず。
後になって分かって見れば単純なこと。
その単純なことを気付かせなくしている点が上手いのです。
合宿でのアニメオリジナル脚色について
最終話は随分大胆に脚色され、オリジナルと言っていいほど。
結末は変わっていませんが、生徒同士の殺し合いは完全アニメオリジナル。
これはこれで盛り上がり、うまくまとめて、楽しめた?
決して嫌いではないのですが・・・
残念なのは、この最終話で、この作品がまるで違う作品になってしまっていることです。
この作品での死は”現象”が起こす厄災であって、生徒や先生には責任はない。
#対策はしなくてはいけないと思いますが
が、この最終話では、追い込まれたクラスメイトが、疑わしきは殺すという狂気に走る。
“現象”が追い込んだ精神的なプレッシャーとは言え、殺人は殺人。
自分の意思で判断し行った殺人・・・
#管理人の奥さんは気が狂ったというパターンなので外します。自殺した先生と同様です。
この最終回だと、作品の終着点が、生徒同士の殺し合いに。
“現象”による生徒へのプレッシャーは相当なモノだと想像はできます。
“死者”を亡き者にしたら”現象”が止まることを
生徒達が知ったことが影響することも理解できます。
が、それでも原作では「死者だからと言ってクラスメイトを殺すのか??」という点が
最後まで葛藤され、実行はされていません。
#勅使河原が「つい」やってしまいましたが、以降は献身的に介抱しています。
恒一も、悩んだ末での、ラストの行動でした・・・
そんな、凄惨な作品の中でも、原作では中学生らしい善良な一面が残っていたのを、
アニメでは人間の奥底にある残虐ないやらしい面を出しているということで、
描いている点が違うということを言いたいのです。
原作小説が最終回を迎えたのが2009年。アニメは2012年。
3年しか違いませんが、時代が変わったのでしょうか・・・
ま、でもこちらのほうが盛り上がったという面もありますけどね。
原作では出番が少ない赤沢がどうして1話から出ているのか、最終話で理解できましたw
おわりに (『Another』とは)
原作もそうなのですが、どうしてこのような”現象”が起きるのかは、説明はなし。
ま、そこはミステリーではなくホラーだから仕方ないのでしょうね。
本格ミステリー作家が書くと、ホラーでもこれだけロジカルな作品になるのかという見本のような作品。
沢山ありすぎて書き切れませんが、冒頭だけでも、
恒一が5月から学校へ行くこと、
恒一が病院で鳴と出会ったこと、
九官鳥の鳴き方、おじいさんのつぶやき・・・
全て計算してストーリーを組み上げていると思うと脱帽です。
本格ミステリーのような伏線に、辻褄が合う人間の行動、計算しつくされた展開。
綾辻行人という作家を知っている人にとっては
ミステリー作家作品だからこそ、最後にはこの”現象”の正体も含めて
全て説明されるのではないか、という期待が作品を真剣に見る原動力にもなっている気がします。
それだけに”現象”についてなんらかの科学的な説明が欲しかったのですが・・・
あと惨殺シーンはミステリー作家というより、綾辻行人の趣味だと思いますがw
最後に、
この原作の良い所を落とさずに、見事アニメ化した製作陣に感謝したいと思います。
ああ、もう一度見たくなった・・・
あ、それと、原作小説『Another』には、続編があります。
続編のアニメ化も期待したいですね♪