こんばんは。時文(@toki23_a)です。
TVアニメ『虚構推理』最終話まで鑑賞しました。
原作は城平京先生による小説。
2011年から刊行され、現在、短編集も入れて3冊刊行。(2020年4月時点)
2012年には「第12回本格ミステリ大賞」を受賞しています。
今回アニメ化されたのは──
大賞を受賞した、1冊目の長編『虚構推理 鋼人七瀬』をメインに、短編集『岩永琴子の出現』の一話「ヌシの大蛇は聞いていた」が挿入。
「本格ミステリ大賞」を受賞した作品に対し、素人が失礼な表現で恐縮ですが・・・
『虚構推理』は本格ミステリというより「伝奇×恋愛×ミステリ」。
伝奇、恋愛、ミステリ、この順番が大事(笑)。
そして、”虚構”が意味するところは・・・
では、TVアニメ『虚構推理』感想レビューをどうぞ。
- 「はじめに」は【ネタバレなし】
- 「感想レビュー」「おわりに」は【ネタバレあり】
はじめに
『虚構推理』という作品名を見るとミステリを想像しがち。
#実際、私がそうでした
ミステリ要素も確かにありますが、『虚構推理』はどちらかと言うと伝奇もの。
「伝奇」
現実には起こりそうにない、不思議な話。
また、そのような話を題材とした、幻想的で怪奇な物語や小説。
by コトバンク
妖怪、あやかし、亡霊、化け物。
『虚構推理』ではこれらを「怪異」と呼び、怪異たちのトラブルや悩みに対処。
怪異だけのトラブルもあれば、怪異が人間世界へ与える問題を解決していく話も。
通常のミステリは、真実を解き明かし、真犯人を突き止めることが物語の結末。
『虚構推理』は、怪異が絡む事件なので、真実や真犯人よりも”秩序”を優先する。
そこで、当事者が納得をする事実を”でっち上げる”。
これが”虚構”推理と言われる所以。
別の事実(虚構)を作り上げるのは、言うは易く行うは難し。
関係ない人に濡れ衣を着せたり、新たな犠牲者を出してはいけない。
その辺がとても上手く、決着がついた瞬間スッキリするのはミステリと同様。
けれど、どこか煙に巻かれたような感覚になる。
本当にその解で良かったのかと、不思議な余韻が残るのが本作ならではの魅力。
#これを魅力と思うかどうかは人それぞれ
#私は楽しめました
そして、忘れてはならないのが主人公かつヒロインの岩永琴子!
見た目は可愛らしいお嬢様。
身体は小さいが、揺るぎない信念を持ち、とても大きな存在感。
だけど、口から出る言葉は時に辛辣、時に高飛車、そして下品・・・
それらが、全身で表現する喜怒哀楽とともに描写。
特に、琴子を中心とした会話と絡み方が絶妙。
本作の魅力の一つとなっています。
そして、彼女の恋の行方も気になる展開に。
ゆえに『虚構推理』は”推理”という文字が入っているのでミステリと思いがちですが、
「伝奇×恋愛×ミステリー」
見ようによっては「恋愛×伝奇×ミステリー」か・・・(苦笑)
3話後半から最終話まで一つの事件を扱うので、後半少し間延びしてしまったのが残念。
事件の解決パートは、会話劇が中心となるので、この手の展開が苦手だと退屈かも。
もう「恋愛×伝奇」で良くね?と思うところもあり(苦笑)。
だけど、それはミステリ部分がダメなのではなくキャラクターが魅力的過ぎるのです。
後半は、寛容な心でご覧下さい。
あと、グロいシーンも結構あり。
苦手な人はご注意を。
会話劇が中心の小説らしい展開。
絵は丁寧で、動きが少ないシーンも工夫が凝らしてあります。
暗い事件や社会でも、琴子の底抜けの明るさ、前向きさが作品を明るくしている。
「こんなミステリもあるのか」という位の気持ちで、”常識破り”を楽しみましょう♪
感想レビュー (以降、ネタバレ全開です)
『虚構推理』ストーリー概要
序盤 (1~3話前半)
舞台は現代。
妖怪、あやかし、亡霊、化け物といった”怪異“が存在する世界。
“怪異“たちの知恵の神・岩永琴子(主人公)は日々怪異たちから悩みやトラブルを解決している。
2年前に病院で一目惚れした桜川九郎にアプローチするも、九郎は彼女と別れたばかりでしばらく付き合う気はないと言う。
さらに九郎には怪異たちも恐ろしくて口にできない秘密があった。
琴子と九郎の出会い(1話)
出だしは、琴子と九郎の出会い(再会)のエピソード。
過去シーンを織り交ぜ、琴子が普通の人間ではないと印象づけながら、九郎はもっと人間離れしていたという展開が面白い。
後から振り返ると、中盤以降の鋼人七瀬事件の主要人物が、ほぼ全てこの時点で出ていた、というミステリーらしい見事な導入です。
沼のヌシ・大蛇の相談(2~3話前半)
このエピソードだけ物語の主軸から外れているように感じましたが、それもそのはず。
全体のストーリーは原作小説『虚構推理 鋼人七瀬』をメインにしていますが、このエピソードだけ違います。
短編集『虚構推理短編集 岩永琴子の出現』の第一話『ヌシの大蛇は聞いていた』を挿入したのです。
恐らく小説1冊だけでは尺を埋められなかったのでしょう。
オリジナルエピソードではなく短編集のエピソードを使ったのは、原作を大事にしている証拠ですね。
それと、「沼のヌシ・大蛇の相談」エピソードは単に尺を埋めただけではありません。
このタイミングで見せたことにより、琴子の目的は「真実を暴くこと」ではなく、「”秩序”を守る」ことだと分かりました。
これは、”虚構”の意味と作品の方向性を示す、良い改変だと思います。
が、同時に、後半へ続く物語を悪い方向へミスリードしてしまった罪作りな回となってしまいました(後述)。
中盤以降 (3話後半~)
琴子が九郎と出会ってから2年後。
とある地方都市で「鋼人七瀬」と呼ばれる怪異が暴れて困っている、との相談が琴子の所へ持ち込まれる。
「鋼人七瀬」は、琴子でも意思疎通ができず、これまでとは違う存在だった。
次第に「鋼人七瀬」は人をも襲い始める・・・
そして、その裏には九郎の身近な人の存在が・・・
琴子の武器は「怪異と会話できる」「怪異に触れる事ができる」こと。
知恵の神・琴子をもってしても、鋼人七瀬とは意思疎通できない。
それどころか意思を持ってない!?
意思を持ってないから、九郎を恐れない。
その上、倒しても復活する。
まずは、「鋼人七瀬」の正体を探る所から物語はスタートします。
◇◇◇◇◇
「鋼人七瀬」事件は、とにかく長い!!
3話Bパートから始まり、そのまま最終回までいくとは思いませんでした・・・
やはり悩ましいのは、まとめサイトの掲示板での対決。
8話終盤~12話序盤まで、丸々3話も費やすとは・・・
ミステリ物の”解決編”に相当する見せ場であることは分かります。
だとしても、あまりに長すぎるかな、と。
それでも、事件開始から徐々に真相に近づき「鋼人七瀬」の正体が判明する過程は楽しめました。
都市伝説、九郎の過去、従姉・六花の絡ませ方が絶妙でした。
「都市伝説」の正体
『虚構推理』作品内でも語られているように──
都市伝説は、人の噂に尾ひれが付き、面白おかしく伝えられていくことで広まったとされています。
ただ、(現実の)都市伝説が全て噂話の延長だと証明されたわけではありません。
不可解なのは、目撃情報があること。
#ウソの証言だと言うのが有力ですが・・・
『虚構推理』では、その不可解な事実に、一つのフィクション(思いが強くなると具現化する)を組み合わせ、さもありなんと思わせる。
着想と物語への取り込みが巧い!
「桜川家」の秘密
九郎が不死になったくだりも、とても具体的で因縁深い。
怪異が存在する世界だから、伝承で伝わる予知能力を持つ妖怪も存在。
九郎は、祖母に予知能力を持つくだんの肉と、死なないように人魚の肉を食べさせら、「未来決定能力」と不死の体を持つ。
桜川家の悲しい妄想の成れの果てと言うのが九郎の人格を形成している。
それだけに、九郎の活躍の場が少ない(ように見える)のが残念。
その後、桜川家がどうなったのか気になるのですが・・・
『虚構推理』はミステリーか?
『虚構推理』は、ミステリの体を為してはいますが、ミステリの醍醐味である推理の過程をあっさり飛ばしている大胆な展開。
主人公・岩永琴子は怪異たちの知恵の神。
知恵の神としての能力は「怪異と会話できる」「怪異に触れる事ができる」こと。
琴子が「知恵の神」だからか、怪異は一様に琴子に従順。
親しみを込めて「お姫様(おひいさま)」と呼ぶほどに。
結果として、琴子の一番の武器は、怪異たちの協力と、怪異を使った情報収集。
怪異は人に見られることもなく、壁やプライバシーも関係なく情報を集めてくれる。
犯罪捜査、事件の早期解決に、これほど役に立つ武器はない。
琴子は怪異の報告を受け、誰よりも情報を集め、分析・組み立てをして真実に辿り着く。
ゆえに、琴子は普通のミステリ作品で言う推理部分は、あっさり解決。
怪異の証言は証拠にはならないが、真実を把握しているアドバンテージは大きい。
事件の真相を推理することなく、
怪異たちへの聞き取りであっさり判明!?
そんな真相の知り方ありなの!?
推理も仮説もないじゃない!by 紗季『虚構推理』TVアニメ第6話
警官の紗季も、思わず突っ込んでいます(笑)。
彼女の常識的感覚が読者の代弁をしているのも面白い!
ただ、これで事件解決と思いきや、ここで終わらないのが『虚構推理』のミソ。
『虚構推理』の事件は、怪異が絡んでいるだけに、真相を解明するだけでは解決しないのです。
大蛇の相談では、真実よりも、ヌシである大蛇が納得できるよう新たな可能性(推理)を披露する。
鋼人七瀬事件では、真犯人が亡霊だと言っても現実的な解決にはならない。
仮にいつかは亡霊を信じてもらえるとしても、その間に被害が出続け、人には亡霊を退治できない。
そこで、想像の産物に虚構推理をぶつけるのです。
言うなれば「ウソ VS ウソ」。
事件解決のために事実をでっち上げる、全力でウソをつくのが『虚構推理』。
虚構推理の「虚構」を楽しむのもさることながら、私はそれよりなにより、実に楽しそうにウソを並べ立てる琴子が見ていて小気味よい。
ひいては、作者の城平京先生が、楽しみながら作品を書いているのだろうと思う程、得意満面な勢いが伝わってくるのです。
事件の決着は、真実ではなく虚構!?
作品構成の功と罪
先述したように、アニメ『虚構推理』は長編小説1冊目をメインに、短編集の一話(ヌシの大蛇)を挿入した全体構成。
プロローグとなる琴子と九郎の出会い。
大蛇のエピソードで琴子のスタンスと”虚構”の説明。
この構成は作品の方向性が理解できるという点では上手い。
しかし、鋼人七瀬事件は長すぎました。
3話後半から最終12話までだから9.5話分!?
いや、エピソードが「長い」というのは不正確。
9.5話分使うほどの「大事件」に感じ取れなかったのが問題なのです。
アニメは、小説と違い、一つの事件がどれくらいで終わるのか分かりません。
そこで視聴者は、最初の数話で予想を立てます。
- 図書館の怪異 1話
- 沼のヌシ大蛇の相談 1.5話
アニメ視聴者は、3話まで見て
- 『虚構推理』は一つの事件が2話程度で解決するパターン
- せいぜい長くても3~4話だろう
と、推測するのです。
#私はそう思いました。
その法則を破る展開はあります。
代表的なのは、より大きな敵、強力なライバルの出現です。
これまでとはレベルの違う敵が出てきて、これは長引く、もっとこの対決を見たいと思わせれば長いエピソードの方が好まれるのです。
ところが、鋼人七瀬です(苦笑)。
いや、インパクトはありましたよ、色んな意味で(笑)。
でも、倒す方法さえ分かれば、あっさり片が付くのかと思ってました(汗)。
最初の図書館の怪異を一発で倒した、琴子と九郎のコンビ。
1話のコンビ結成から2年経過しているわけですしね。
少なくとも、3話から最終話まで使うほどの大事件、強者には見えないのです。
簡単には倒せないことは少しずつ分かっていくのですが、この徐々に分かるというのが返って仇になったのではないでしょうか。
繰り返しになりますが、都市伝説に絡めた現象や、九郎が不死になった過去エピソードは好奇心をかき立てられました。
元カノ・紗季が出てくるだけでなく、冒頭で九郎が見舞いに行っていた従姉・六花がラスボスという展開はミステリーらしく絶妙!
大蛇のエピソードを挟んだから余計に、サプライズ感が増しました。
この辺が巧かっただけに惜しい、くやしい!
岩永琴子オンステージ
長大な鋼人七瀬事件でも、事件一辺倒にならず、よい緩急を与えていたのが琴子の存在。
彼女の存在は本当に大きい。
可愛らしいだけでなく、姿そのものが絵になる存在感。
外見だけでなく、琴子の言葉が小気味よい。
それなりの憎まれ口を叩き、自分の感情に正直な言動でもイヤミにならないキャラクター。
もちろん声優・鬼頭明里さんの演技力も大きい。
とても完成度の高いキャラクター。
鋼人七瀬事件で、九郎の元カノ紗季が再登場。
紗季は現実的で理論派。
それでいて堅いわけではなく柔軟性も兼ね備え、芯のある大人の女性。
琴子とは正反対のタイプの紗季の再登場が、琴子をより際立たせる関係が秀逸です。
普通なら三角関係とか面倒な展開になりそうなのですが『虚構推理』は違いました。
九郎と紗季、双方とも全くよりを戻す気はなく、琴子の独り相撲。
琴子と紗季の会話しかり、紗季を挟んでの琴子と九郎との会話劇がこれまた楽しい。
事件だとあれだけ怪異や人を自信ありげにコントロールするも、九郎には通用しない。
事件をあれほど冷静に見ることできるのに、九郎への想いだけはストレートで純粋無垢。
そのギャップが見ていて微笑ましくて堪らない。
願わくは、琴子が一目惚れした真意を知りたい。
琴子は、九郎に出会う前に、彼が怪異から恐れられていた存在だと知っていた様子。
では、一目惚れしたのは、九郎に(人ではない)同類のシンパシーを感じたからか。
それとも、単にイケメンだからか(笑)。
後者な気もしますが・・・(苦笑)。
常識破りのミステリ
『虚構推理』はミステリの常識を大きく3つ破っていると私は考えています。
1つ目と2つ目は先に述べた通り。
- 「怪異の目撃情報」で真相に辿り着く
- 決着が真実ではなく「虚構」である
3つ目は九郎の能力です。
大事なポイント、九郎の能力は
「予言」や「予知能力」ではなく「未来決定能力」
ということ。
「未来を自分の望むものに決定できる能力」
ただし、未来決定能力を使う際は、死が避けられない。
九郎は、「未来決定能力」と同時に「不死の能力」を持つことにより、死ぬことなく未来を決定することができる。
「未来を予知」ではなく「未来を”決定できる”能力」
決して「未来を”作り出す”」ほど強い力ではない。
「起こりえる可能性の高い未来」の中から選び、その未来を確定させる能力。
かなり制限された能力ですが、琴子の「知恵の神」としての目的である「秩序を守る」ことにおいてとても有力な能力。
「秩序を守る」ためには、真実である必要ない。
「秩序を守る」ために、真実よりも虚構の方が都合が良ければ、虚構を信じさせれば良い。
虚構、つまりウソを信じてもらうには真実を信じさせるより難しいこともある。
その際、九郎の「未来決定能力」が良い援護射撃になるのです。
琴子の「虚構を作り出す才能」と、九郎の「未来決定能力」は最強コンボなのです。
望まれる可能性が少しでも高いウソを私が用意すれば、支持される確率を九郎先輩が100%にしてくれます。
by 紗季『虚構推理』TVアニメ第6話
起こる可能性が高い未来を用意すれば、未来決定能力で確実に事実にできる。
鋼人七瀬事件の終盤は、六花と琴子、どちらのウソ(虚構)が支持されるかの勝負。
随分、うまく事が運ぶなと、思いませんでしたか?
少しあり得ないトリック、論法、こじつけが過ぎると感じませんでしたか?
これら最後の一押しは、九郎の「未来決定能力」のおかげ。
琴子は、支持してくれる(この場合、ネット民に期待される)可能性が高いウソを提示し続け、九郎が決定していく。
この作業の連続だったのです。
つまり、最後の議論は”ズルをして”勝利したのです。
悪いという意味ではないですよ。
なにせ、敵側の六花も「未来決定能力」を使って鋼人七瀬の亡霊を作り上げてきたのですから。
ズルにはズルを。
「未来決定能力」には「未来決定能力」を。
「鋼人七瀬」という都市伝説には、「七瀬かりんは生きている、死んだのは別人」という新たな都市伝説をぶつけたのです。
頭脳戦の決着は、論破ではなく「未来決定能力」!?
おわりに (『虚構推理』とは)
『虚構推理』は常識破りのミステリ。
- 事件の真相は推理ではなく・・・
⇒ 怪異たちの情報で判明する - 事件の決着は真実を明かすことではなく・・・
⇒ 「虚構」で納得させること - 真犯人との対決は議論でも罠でもなく・・・
⇒ 「未来決定能力」が決定打
『虚構推理』は、最後まで真面目にミステリーしてないのです。
#褒めてます!
タイトルでミステリと思わせ人を惹きつけておきながら、ミステリの常識を無視。
意表を突きながら、別の魅力で引きつける。
「常識破り」と「キャラクター」。
常識破りで、こういうアイデアもあるのだという「してやられた感」!
「キャラクター」については岩永琴子の魅力は言うに及ばず。
どちらかで引きつけられれば成功だ。
実に巧い。
こういう技法は、まさしくミステリーなのです。
やはり『虚構推理』は、常識破り。
さあ、これは2期ありますよね!
ストック少ないですが、長編はもう一冊あります!
期待しています!
以上、TVアニメ『虚構推理』の感想レビューでした。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
ではでは。
ラブコメだったらもう少しオススメ度高かったかも(笑)