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こんばんは。時文(@toki23_a)です。
TVアニメ『チ。-地球の運動について-』第9話「きっとそれが、何かを知るということだ」を鑑賞しました。
本レビューではアニメ感想だけではなく、原作コミック情報も加え、個人的な解釈による解説・考察をしています。
皆さんの理解の助けになり、作品をより楽しんで頂ければ幸いです。
今回アニメ化されたのは──
- 原作コミック『チ。-地球の運動について-』第3集
-
第19話~第21話まで (第3集最後まで)
今話の主なトピック (クリックすると該当項目へ)
- ピャスト伯の「見なければならないもの」とは?
- 教授の「私の宇宙を譲ろう」とは?
- 二重周転円とは?
- (原作) 「正しい宇宙」と言いながら、なぜ発表しない?
- 天動説では、金星はどう動く?
周転円とは? - 天動説では、なぜ金星は満ちない?
- 地動説だと、なぜ金星は満ちる?
- 「満ちた金星」は地動説の証明なのに、なぜ誰も気付かない?
※「(原作)」は、原作情報を根拠の中心にして考察しているトピック
今話で解決しなかった疑問
最下部「疑問点まとめ (Q&A一覧)」に記載
本レビューの方針
本レビューは、次話以降のネタバレなし
アニメ『チ。-地球の運動について-』の原作は、魚豊先生による同名漫画。
私は原作未読です。
アニメ鑑賞後、アニメ化済み時点までの部分を読み、レビューを作成しています。
アニメ鑑賞
+
原作コミックを読み
知り得た情報を加味して「感想・解説・考察」
よって、次話以降のネタバレはなしなのでご安心ください。
なお、原作コミックの情報は、「原作情報」として区別できるよう記載します。
こんな感じです
緑系の色を目印にしてね!
引用部分も次のように緑系をワンポイントに ──
燃やす理屈、なんかより!!
by ラファウ『チ。-地球の運動について-』コミック1巻
僕の直感は、地動説を信じたい!!
ちなみに、考察や疑問はオレンジ系 ──
補足や余談、参考情報はブルー系 ──
と色分けしているので、読む際の目安にして下さい。
全25話 各話リスト
話数 | サブタイトル | 原作漫画 |
第1話 | 『地動説』、とでも呼ぼうか | 第1集 |
第2話 | 今から、地球を動かす | |
第3話 | 僕は、地動説を信じてます | |
第4話 | この地球は、天国なんかよりも美しい | 第2集 |
第5話 | 私が死んでもこの世界は続く | |
第6話 | 世界を、動かせ | |
第7話 | 真理のためなら | 第3集 |
第8話 | イカロスにならねば | |
第9話 | きっとそれが、何かを知るということだ | |
第10話 | ||
第11話 | ||
第12話 |
※話数:リンクは各話レビューへ
※サブタイトル、原作漫画:ネタバレを避けるため次話以降はマスク
はじめに
自分を見出してくれた教授から託された「完璧な天動説」に全てを懸けてきたピャスト伯は、バデーニに観測記録を見せる条件として地動説が間違っている証明をしろと言う。
その心は・・・。
真実を求めていたはずなのに・・・追いかけていたのは真理か、天動説か。
惑う星の軌道追い求め幾歳月費やすも、見えぬゴールに戸惑う学者達。
たった一度の疑惑を胸に秘め、足らなかったのは無謀さか、それとも非情さか・・・。
疑惑の解消と資料閲覧の権利は、満ちた金星に委ねられる。
オクジーの目に託された宇宙歴史の分かれ道。
オクジーが満ちた金星見たいのは、地動説の確証得たいからか、世界満たしたいからか・・・。
悔しさ後悔が目に溢れるも、最期に真理垣間見たピャスト伯は何思う。
オクジーの中でも何か芽生えた!?
今話の主役はピャスト伯、そしてオクジーでしたね。
にしても・・・観測記録入手したらヨレンタは用済み!?
酷い!
と思ったけど異端研究だから関わらない方がいいんじゃ…
そうだね
恐ろしい結末が待っているのは目に見えているからね
ただ、真理に触れてしまったヨレンタの知的探究心は収まるのかな…
では、今話を振り返っていきましょう。
感想&考察レビュー 第9話「きっとそれが、何かを知るということだ」
生涯を捧げた研究
先代の教授は、ピャスト伯に研究所を任せようとしていた。
見なければならない物
もうこの目では何も見えんか。
by ピャスト伯『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
だが、死ぬ前に見なければならんものがある。
後に分かりますが ──
「死ぬ前に見なければならんもの」とは、満ちた金星のことですね。
自分の目では確認できないので、研究資料を見せる条件として提示したのです。
私の宇宙
君に私の宇宙を譲ろう。
by 教授『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
「私の宇宙」とは粋な言い方ですね。
教授を何を指してそう呼んでいるのでしょうか?
資料室に入れる鍵(権利)じゃないの?
半分正解です。
でも、それは「宇宙」ではないですよね。
そっか…
これを見てみろ。
私が考案し修正してきた宇宙だ。- 中略 -
これが宇宙の正しい姿だ。
by 教授『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
資料はあくまで観測データ。
「私の宇宙」の根幹は、教授が膨大な観測資料から導き出した研究成果。
「完璧な天動説」を目指し、何度も何度も修正を重ねた宇宙のこと。
「私の宇宙」とは、研究成果そのものですね。
とは言え、成果に至るまでの資料も含め、資料室の鍵もセットなのでしょう。
面白いのは ──
ピャスト伯がバデーニに渡したのは観測資料(の鍵)であって、研究成果は渡していません。
研究成果をまとめたノートはピャスト伯の手元にあり、今話ラスト、そこに最後となる研究結果を記したのです。
おおっ、そういうことか
資料室
資料室だ。
by 教授『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
私しか入れん。
膨大な資料が収められた資料室。
なんと、20年勤めたピャストも初めて入ったのです。
いや、それどころか知らなかった様子ですね(笑)。
なるほど、一つ謎が解けました。
前話、ヨレンタはピャスト伯を紹介しました。
天文の研究所に籍はあるので、その中から協力者を紹介できるかもしれません。
by ヨレンタ『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第8話
なぜ、一番厄介な人を紹介するのか不思議でした。
ピャスト伯は天動説の権威です。
そんな人に地動説の研究のために資料を見せて欲しいだなんて、無謀もいいところ。
コルベに頼むか・・・いやコルベも天文研究所に勤めていないようなので意味なし?
だとしても他の所員を頼れる様子ではないので、コルベを通じて観測記録を自由に閲覧できる人に協力を仰ぐのだと想像していました。
なるほど、そもそも観測記録は研究所長であるピャスト伯しか見ることができないのです。
観測記録を自由に見る為にはピャスト伯の協力を得るしかなかったのです。
逆に言うと、ピャスト伯以外の所員は観測資料の全てを自由に閲覧できないのです。
なら一体、所員は普段どうやって研究を!?
あれだけの所員をかかえているのに・・・。
恐らく、一部の観測資料は閲覧できるのでしょう。
「無謀さが足りない」と言うなら、まず自分が率先して所員に資料を開放すればいいのに
あっ、確かに…
先代の教授もそうですが、真理に辿り着くのは一人、と考えているのでしょうね・・・。
二重周転円
二重の周転円?
すごい。精度も申し分ないし、等速円運動も達成してる。
by ピャスト伯『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
ああ、ついに出てきました「二重周転円」(笑)。
どしたの?
なかなかに不自然な動きなんだよ(苦笑)
天動説で明快に説明できない代表格の、惑星の逆行。
そもそもの地球中心という天動説が間違っているので、惑星の逆行を端的に説明できません。
結果、観測データから軌道を割り出し計算式に落とし込む。
バデーニも後半で言っている「こじつけ」た理論になっているのです。
ただまあ、当時の人にとっては、宇宙の真理を明かすため捻り出した結果なのでしょう。
科学者は、惑星の動きを不可解な運動で済ますことができなかったのです。
では、「周転円」とは何か?
それは、後の「満ちた金星」解説の中で説明します。
完成…してない?
この精度まで辿り着いてるのは、人類の歴史上、恐らく私だけだ。
by 教授『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
これが宇宙の正しい形だ。
「この精度まで辿り着いてるのは~私だけ」
「これが宇宙の正しい形」
宇宙の正しい形、かつ、この精度に辿り着いているのは教授だけ。
ならば、なぜ発表しないのでしょうか?
それはまだ完成していないからですね。
完成しないのだ、いくらやっても・・・。
by 教授『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
私の能力では、常に看破できない誤差が出てしまう。
能力ではありません。
周転円、いや、そもそもの天動説自体が間違っているので、いつまでやっても誤差が出てくるのです。
それでも、初見でピャストが感心したように、二重周転円を使ったモデルは(実際の惑星の動きに近い)かなりの完成度になっています。
発表すれば、教授の名は一躍有名になったでしょう。
それはピャスト伯にとっても同様です。
でも、発表しなかったのは、まだどこか物足りない点があったのでしょう・・・。
アニメではカットされていますが、原作では ──
これが、宇宙の正しい形だ。
しかしこれでもまだ、完成というには誤差が多いがな。
※太字部分はアニメではカット
by 教授『チ。-地球の運動について-』コミック第3集
教授自身、まだ完成には遠いと言っているのです。
史実はどうなっているのでしょう?
二重周転円は、14世紀ムスリムの天文学者であるイブン・シャーティルの著作に描かれています。
Ibn al-Shatir', Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
『チ。』作品内での現在は、15世紀前期。
教授が亡くなったのが何十年前か分かりませんが、ちょうど同じ頃に二重周転円モデルに辿り着いたのではないでしょうか。
となると、二重周転円は既に発表されており、後追いで発表しても、それだけでは新しい発見にはなりません。
発表するには、より精度の高い宇宙を見つけなくてはならなかったのです。
固まる決意
あの研究は間違いじゃない!
by ピャスト伯『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
捧げた教授の人生も間違ってない!!
今話後半まで見て分かるのは ──
ピャスト伯は、天動説に僅かな疑問を抱いていたようです。
だから、教授の研究をすぐには受け取れなかったのでしょう。
でも、教授の最期を看取り ──
自分の才能を見出してくれ、天文を存分にやることの背を押し、自分の研究成果を全て譲り託そうとしてくれた恩師の想いを無視できません。
あのとき見た「満ちた金星」は見間違いに違いない。
教授がここまで情熱を注いだ天動説が間違っているわけがない。
無謀さを信条にしていたピャスト伯でも、恩師である教授の思いを断ち切ることはできなかったのです。
逝ったよ。
あとは頼んだ、私は研究室へ行く。── えっ、こんな時に何を!?
宇宙を完成させる。
by ピャスト伯『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
この時点から、ピャスト伯は「完璧な天動説」証明に全てを捧げたのでしょう。
ピャスト伯は、レベルの低い論文を時間の無駄と言い。
挨拶も無駄口と言い放ちました。
ピャスト伯は、気難しいのではありません。
宇宙の完成に全てを賭けていたので、1分1秒ですら惜しかったのです。
天動説vs地動説
ピャスト伯は、ある条件で観測記録を見せても良いと言う。
満ちぬ金星①(背景)
天動説では地球が中心だから、当然金星も地球の周りを回ってます。
ということは、太陽に照らされる方向もある程度決まっていて、金星は常に欠けて見えるんです。
by ヨレンタ『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
さて、何言ってるか分かった?
分かんなーい
説明よろしく~~!
・・・
天動説と地動説で金星がどのように見えるか?
実は、簡単に説明するのは難しいです。
アニメ(と原作)は図も使って、かなり分かりやすく説明しています。
が、天動説の基礎知識がないと、いくつか引っかかる箇所がありそうです・・・。
「天動説では、金星は常に欠けて見える」の意味は分かる?
う~~ん、分かるような分からないような…
そっか、まずはそこからだね
まずは、天動説での金星の動きを理解しましょう。
天動説では、太陽を含む全ての惑星は地球を中心に回っています。
プトレマイオスは地球を中心に、月、水星、金星、太陽、火星、木星、土星の順に回っていると唱えました。(下図)
S. Perquin, CC BY-SA 4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で
ここで重要なのは、金星と太陽の位置関係。
金星は、(地球から見て)内側から3番目。
その外側(4番目)を太陽が回っています。
金星は太陽より内側を回っていることがポイントだから覚えておいて
金星は惑星なので、自ら光を発しません。
地球から見ると、(月と同じように)太陽に照らされた部分のみが見えます。
ここまではOK?
問題なし!
ここから少しややこしくなります。
頭を柔軟にして、読んで下さいね。
金星が太陽より内側を回っている、と言うことは ──
地球からは、金星はこんな風に見えると思いませんか?
※金星の白い部分が、太陽に照らされ地球から見える金星です。
えっ、そう思った!
違うの!?
はい、違います。
天動説では、全ての惑星が地球を中心に回っています。
ならば、図1のように考えてしまい ──
天動説でも、図1の③の位置なら「満ちた金星」が見えるのでは!?と思ってしまいます。
そうそう、それ!
何かモヤモヤしてたのは、それっ!
上記のように見えるのは、本当に地球を回っている月のみです。
ん?
だから金星も回ってるんじゃ…
いや、それが間違っているから
実際は、金星は地球を回ってません!
えっ、あっ、そうか…
天動説から一旦離れて、真実である地動説を思い出してください。
実際は、太陽(Sol)を中心に水星(Mercury)、金星(Venus)、地球(Earth)の順に公転しています。
Datumizer, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
金星が地球より外を回ることはありません。
だから、先の図1の③どころか②④の位置に来ることもあり得ないのです。
えっ、分かるけど、じゃあ…じゃあ…どういうこと??
では、天動説では、金星はどのように地球を回っているのでしょうか。
プトレマイオスの天動説では ──
金星は、太陽と同じ速度(等角速度)で地球を公転しているとされています。
こんな感じです。(図2)
※金星の満ち欠けは、一旦置いておきます
点線で囲ったように、地球から見ると、太陽と金星はいつも同じ方向に見えます。
要は、天動説では、金星は太陽とセットで地球を回っている。
天動説では、金星は太陽に追随するように、地球を1日で1周すると考えられていたのです。
えっ、でも実際は、いつも太陽とぴったり同じ方向に見えないんじゃ…
その通り!
実際には、地球から観測すると、太陽と金星の位置関係は一定でありません。
太陽に近づいたり、反対側に移動したり、挙げ句の果てに大きさが違って見えます。
そこで出てきたのが「周転円」という考えです。
何を言っているか分からないですよね(苦笑)。
実は、我々に馴染みの深い(地動説でいうところの)太陽と、地球と月の関係です。
地球は太陽を中心に回っています。
月は地球を中心に回っています。
太陽から見た月の動きが、周転円の動きです。
ややこしいのが、天動説で言う周転円は、周転円の中心となる(最初の円を)回っている物が何もないこと。
何もない所を中心にして、その惑星が回っているとされていたのです。
MLWatts, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
なんでそんな考えに…
実際にそう見えるから、だね
そういうことか…
(天動説による)惑星の運動を説明するのに、地球を単純に回っているというだけでは説明できない動きがある。
そこで、実際の動きを観察して ──
それらの惑星は、地球を回転する円を中心として、そこでも小さな円を描いている。
更に、それでも説明できないズレが出てきたので ──
二重の周転円?
すごい。精度も申し分ないし、等速円運動も達成してる。
by ピャスト伯『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
周転円を中心とした周転円を描き、「二重の周転円」という(私から見るとこじつけの)考えが導入されたのです。
地動説を知っていると、なぜそんなに難しく考える!?と思ってしまいますね(苦笑)。
ここまでは理解できましたでしょうか。
さて、ここからが本題「満ちぬ金星」です。
まだ前振りだったの!?
そうです。
天動説では金星が満ちない理屈を知るための基礎知識です。
前振り長っ! 長っ! 長っ!
まあ、ここまでが一番取っ付きにくいから、ここを乗り越えたなら後はすんなりいくかな、と…
満ちぬ金星②(なぜ満ちぬ?)
前項で説明したのは、ヨレンタの先のセリフの前半部分➊です。
天動説では地球が中心だから、当然金星も地球の周りを回ってます。➊
ということは、太陽に照らされる方向もある程度決まっていて、金星は常に欠けて見えるんです。➋
by ヨレンタ『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
上記セリフは必要最低限の内容に凝縮されています。
前半セリフ➊を正確に言うと ──
「天動説では地球が中心だから、当然金星も地球の周りを回っています。(加えて、太陽と金星は常に同じ速度(等角速度)で回り、大体同じ方向にあります)」という感じでしょうか。
続いて後半部分➋。
では、天動説だと、なぜ金星は常に欠けて見えるのでしょうか。
天動説では ──
金星は、太陽と共に地球を中心に回っています。
つまり、地球から金星を見ると、常に太陽の方向(付近)にあります。
加えて、金星は周転円、即ち地球を中心とした円周上を中心として小円を描くような動きをしています。(前項)
金星は地球を中心に内側から3番目、その外側(4番目)を太陽が回っています。
S. Perquin, CC BY-SA 4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で
順番は、変わることはありません。
よって、地球から見ると、太陽と金星の位置関係は下図のような構図になります。
Astrobryguy Derivative work of en:File:Phases-of-Venus2.svg (released to public domain)., CC0, via Wikimedia Commons
太陽に照らされている部分が白、影の部分が黒。
あっ、全然金星(の明るい部分)が見えない!?
こうして見ると一目瞭然だね
金星が、常に太陽と地球の間に位置するのであれば ──
常に太陽が金星の向こう側なら、金星が全て明るい(太陽の光で満ちた)光景は見えないはずなのです。
これが、ヨレンタのセリフの意味するところです。
天動説では地球が中心だから、当然金星も地球の周りを回ってます。
ということは、太陽に照らされる方向もある程度決まっていて、金星は常に欠けて見えるんです。
by ヨレンタ『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
だけど、若かりし頃のピャスト伯は「満ちた金星」を見てしまったのです。
頭の良いピャスト伯なら、それが何を意味するか分かったのでしょう。
教授や自分達が研究してきたことの根本を変える事象だと。
だから、すぐさま否定したのです ──
こんな見間違いするなんて、私も疲れてるな。
大丈夫だ、満ちてない。
by ピャスト伯『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
まるで、見間違いだと自分に言い聞かせるように・・・。
地動説の証明
では反対に、「満ちた金星」が観測できれば、なぜ地動説が証明されるのでしょうか。
金星が満ちている場合、金星は太陽の後ろへ回り込んで照らされていなければならない。
この状況では、惑星は太陽を中心に動いていると考えるのが自然だ。
by バデーニ『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
図を見た方が、分かりやすいですね。
※左が地動説、右が天動説
Fer31416, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
天動説(図右)だと、金星は常に太陽の手前で満ちることはありません。
満ちるには、太陽の向こう側に金星がなくてはならず、金星は太陽の周りを公転していると考えるのが自然だと言っているのです。
人間の目
「満ちた金星」が、天動説を否定し地動説の証明になるなら、なぜ今まで誰も気付かなかったのでしょうか。
実は「満ちた金星」は普通の(視力の)人では観測できません。
視力検査の「C」が小さくなると、ただの○にしか見えないのと同じかな
先の図で示したように、「満ちた金星」が見えるのは、金星が太陽の向こう側に回った時。
つまり、地球から最も離れた位置にある時です。
だから、ピャスト伯も ──
満ちた金星が観測できぬなら地動説など退けられる。
by ピャスト伯『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
本当に貴様らの仮説が正しいなら、金星が小さく遠い今日はまさに満ちて見えるはず。
一番遠い場所、太陽の向こう側にあるだろう時に満ちるだろうと理解して言っていたのです。
言ってみれば、一番遠く小さく見える時にしか、「満ちた金星」にならなかったのです。
なので、普通の人に、「満ちた金星」は観測できない。
並外れた視力を持った(若き)ピャスト伯と、オクジーにしか観測できない、という設定ではないでしょうか。
アニメではカットされていますが、ピャスト伯が「満ちた金星」と言った際、原作ではバデーニが ──
ありえない・・・。
by バデーニ『チ。-地球の運動について-』コミック第3集
人間にそんな視力は・・・。
少なくともバデーニには見えなかった(正確に言うと判断できなかった)のです。
実際、「満ちた金星」の観測されたのは望遠鏡が発明されてから。
15世紀に地動説を唱えたコペルニクスの説で金星の満ち欠けは想定できましたが、肉眼では観察できませんでした。
1608年望遠鏡が発明され、その後ガリレオが天体観測で使い「満ちた金星」を観測。
ガリレオは天動説より地動説の方が正しいと確信を得たのです。
決着
「満ちた金星」を観測し、資料室の鍵を得たバデーニ。
用済み
ヨレンタさんだが・・・。
選択は君に任せるが、私としては、できればここで外れて欲しい。
by バデーニ『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
観測資料を手に入れれば、ヨレンタは用済み!?
いや、用済みというより、バデーニは一人で研究したいのでしょう。
ヨレンタは優秀です。
それは、バデーニも分かっているはず。
だけど、バデーニは地動説証明の成果を自分で独占したいと考えています。
7話、バデーニはこんなことを言っていました ──
後進は作らない。
死ぬまでに私が証明できなかったら、私の関わった書物全てを燃やす。あくまで重要なのは、私がこれを完成発表することだ。
by バデーニ『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第7話
他の誰かに踏み台にされるのはごめんだからな。
「あくまで重要なのは、私(バデーニ)がこれを完成発表すること」
だから、一人で研究したいのでしょう。
7話鑑賞時、バデーニはなんて傲慢なんだと思いましたが、教授もピャスト伯も同じでしたね。
逆にこれくらい我が強くないと、研究に人生や命を賭けられないのかもしれませんね。
となると、優秀なヨレンタはかえって邪魔なのです。
ただ、バデーニしては感謝しているのでしょう。
とはいえ、今回の件は非常に助かった。
by 『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
私がこんなことを言うのも非常にまれだが、何か1つ頼みを聞き入れよう。
珍しい!
ヒドい…でも確かにちょっと意外(苦笑)
まあ、それだけ、ピャスト伯に協力依頼する判断力と行動力に感謝しているのでしょう。
そして ──
もし後日、我々が捕まったとしても、君は無関係を貫け。
by バデーニ『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
それが君のためにも地動説のためにもなる。
バデーニの研究が協会にバレて、資料の入手経路を調べられ、ヨレンタに辿り着いたとしても ── 無関係を貫け、と指示したのです。
これは重要ですね。
実際、ヨレンタは地動説を知ってしまいましたが、何も研究はしていません。
だからウソでも何でもなく、地動説研究はしていないのです。
が、地動説研究をしているバデーニに観測資料を入手する手助けをしてしまったのです。
ピャスト伯にも口止めしておかなければいけないと思いますが、とりあえず立場の弱いヨレンタに警告をしたのです。
バデーニは、優しい?
いや、ヨレンタを巻き込んだのはバデーニだから、優しいとは…
あっ、そうか…
でも、ヨレンタはどう思っているのでしょうか?
前々話、(論文で)名を残すことに拘っていました。
前話、(アニメではカットされましたが)「この世自体を動かしたい」と言っていました。(8話 )
そんなヨレンタが、地動説を知って、退くことはできるのでしょうか?
一度火が付いた知的探究心を静めることはできるのでしょうか・・・。
真理
やっとお話しできます。
真理を・・・。
by ピャスト伯『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第9話
ピャスト伯が、最期にノートに記していたのは美しい真円の数々。
「満ちた金星」を観測し、これまでの膨大な観測記録から惑星の軌道を計算すると導き出された結論。
── 地動説でしょうか。
先代の教授から受け継がれ、ピャスト伯も人生を賭けた「完璧な天動説」の完成。
でも、最期の最期に辿り着いたのは地動説。
これが、真理だと確信したのでしょうか・・・。
先にも書いたとおり、「満ちた金星」を目撃しておきながら、それを否定。
それもこれも、恩義がある先代教授を否定することになるからと私は推測します。
「満ちた金星」をなかったことにし ──
教授の研究を受け継いだのは、ピャスト伯は実は非情ではなく、情に厚い人柄。
となると、導き出されるのは ──
ピャスト伯は、実質「完璧な天動説」を求めていたのでも、真理を求めていたのでもないのかもしれませんね。
えっ、違うの!?
ピャスト伯が求めていたのは ──
「完璧な天動説」を完成させることにより、教授の人生が無駄ではなかったことを証明したかったのではないでしょうか。
教授から研究を託されたと同時に、天動説の呪縛から逃れられなかったのです。
「満ちた金星」を見て、違和感に気付きながら・・・。
でも、最期に気付いたのです。
教授が願っていたのは「完璧な天動説」ではなく、「宇宙の真理」だと。
だから、ピャスト伯も地動説を受け入れたのではないでしょうか。
地動説を記載したノートは、ピャスト伯の手を離れ、屋上から下に落ちてしまいます。
簡単には見つからない場所に落ちてしまったピャスト伯のノート。
一体、いつ、誰が見つけるのでしょうか・・・。
願わくは、ヨレンタが見つけなければ良いのですが・・・。
でないと、2話の再来です。
なにこれ?
by 異端審問官ノヴァク『チ。-地球の運動について-』TVアニメ第2話
ラファウの部屋に勝手に入り、地動説を書いたノートを見つけ問い詰めるノヴァク。
ヨレンタがピャスト伯のノートを持っているだけで、余計な疑惑を持たれかねないのです・・・。
こわっ!
ピャスト伯のノートはどうなった?
それにしても、研究所はどうなるのでしょう?
貴族はいないし、ピャスト伯が誰かに譲ったわけでもなく。
大体、全ての資料をバデーニに渡したのです。
「完璧な天動説」の証明をやるには一から研究を始めなくてはなりません。
大体、ピャスト伯が最期に書いていたのは天動説ではなく地動説。
それが真理だと呟いたのです。
この研究所はどうなってしまうのでしょうか?
そして、研究所で働いていたヨレンタはどうするのでしょうか?
ピャスト伯が亡くなり、研究所やヨレンタはどうなる?
おわりに (『チ。-地球の運動について-』9話とは)
智の継承。
真理に辿り着くのは自分だ。
そう決意し、確信し、ゴールが見えそうで見えない真理を追い求める教授とピャスト泊。
地動説の証明がポトツキ、フベルト、ラファウ、異端者、バデーニと受け継がれたように、天動説でも「完璧な天動説」を目指して智が継承されていたのです。
いずれも、宇宙の真理に魅せられた者達。
国や誰かから課せられたのではなく、自ら飛び込んでいく。
天動説、あるいは地動説に、人生を捧げる。
いや、地動説に至っては命をかけています。
未開の分野だから人が集まるのか、ただそこに未解決の謎があるから追い求めるのか。
何かこう、それだけではない、もっと人間の根幹に関わることを見出そうとしているのを感じるのは私だけでしょうか・・・。
本作はまだまだ1/3を過ぎたところです。
これからどんな展開を見せてくれるのか、どんな結末にt取り付くのか、今から楽しみでなりません。
以上、TVアニメ『チ。-地球の運動について-』第9話の感想&考察レビューでした。
長文にもかかわらず、最後まで読んで頂きありがとうございます。
次話のレビューも書く予定です。
良かったらまたお越し下さい。
最新情報はX(@toki23_a)にて!
ではでは。
「満ちた金星」の「ち」
疑問点 まとめ(Q&A一覧)
この章では、疑問点をまとめていきます。
- 今話で発生し解決した疑問は、本文で解説して本章(ここ)でまとめ
- 今話で解決しなかった疑問を、疑問XX-XX(話数-通し番号)として記録
⇒ 本章(ここ)でまとめ - 答えは、推測ではなくできるだけ(原作含む)作品内で明らかになった事実を記載
※推測が入る場合は、断りを入れる
⇒ 解決した疑問は、次話で削除
今話で解決した疑問 (クリックすると答えが表示されます)
今話で新たに発生し、解決しなかった疑問
- 疑問 09-01 ピャスト伯のノートはどうなった?
- 疑問 09-02 ピャスト伯が亡くなり、研究所やヨレンタはどうなる?
残っている疑問 (クリックすると表示されます)
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- 疑問 05-01 ラファウの手紙、ポトツキ贈与に込めた意図は?
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- 疑問 07-01 コルベのヨレンタに対する態度は本心か、それとも・・・
- 疑問 07-02 ヨレンタの父親は誰?
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- 疑問 08-02 教会は、貴族相手でも異端扱いできる?
今週の感想ツイート
#チ。 #チ球の運動について 9話
— 時文@ここアニ(『チ。』レビュー中) (@toki23_a) November 24, 2024
追いかけていたのは真理か天動説か
惑う星の軌道追い求め戸惑う学者達
たった一度の疑惑胸に秘め、足らなかったのは無謀さか非情さか…判定は男と金星に、果たして結果は…
悔しさ後悔溢れるも最期に真理垣間見た伯は何思う😢
代闘士も何か芽生えた!?彼女は用済み!?
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