こんばんは。時文(@toki23_a)です。
『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』の第三章「呪われた絵画」を読みました。
本小説は、TVアニメ『サマータイムレンダ』ラストの延長線上の世界が舞台のスピンオフ。
単体でも楽しめますが『サマータイムレンダ』、そしてコミック『サマータイムレンダ2026 未然事故物件』を知っている方がより楽しめます。
アニメ版でも原作コミックでも良いので、先に『サマータイムレンダ』を最後まで観て(読んで)から読むのがオススメです!
ここから先──
「はじめに」では『サマータイムレンダ』およびコミック『サマータイムレンダ2026 未然事故物件』の内容に触れています。
「感想&考察レビュー」以降は、加えて小説『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』の内容に触れています。
特に『サマータイムレンダ』は、ネタバレ厳禁の類いの作品なので、未視聴(未読)の方はご注意を!
本レビューの方針
本レビューは、章を読み終えた後に書いています。
よって『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』の次章以降のネタバレはなしなのでご安心ください。
各章リスト
※ 話数:リンクは各話レビューへ
本ブログ「ここアニ」では、アニメ『サマータイムレンダ』、コミック『サマータイムレンダ2026 未然事故物件』のレビューも書いてます。こちらからどうぞ。
はじめに
平日の昼時。
ひづるは、取材のために波稲の大学の学食で食事をしていた。
そこへやってき担当編集者・強羅は、ひづるから煙たがられるも「呪われた絵画」の話をし出す。
小説『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』は、ひづる&波稲が、様々な怪奇現象に挑む1話完結の短編集です。
第一章「危機回避倶楽部」は、予知能力。
第二章「ゴースト&ドライブ」は、車が勝手に動き出す亡霊車。
第三章「呪われた絵画」は、購入した人は必ず不幸になる絵画。
今回は、ついに幻覚が!?
展開は、ミステリーというよりホラー(笑)。
いや、本作は別にミステリーと謳っていませんね(汗)。
「異聞百景」なので、奇妙な出来事に向かっていく二人を楽しむ作品。
サスペンスorホラーで全然問題ないのです。
その点で言うと、今回の見所はホラー要素!
結構来るものがあったので、他の章より短いこともあり一気に読んでしまいました♪
一気に読まないと、気になって眠れませんでした(笑)。
本作は、波稲の成長が見られるのも特長。
第一章では友情。
第二章では仕事観。
第三章では・・・。
そして、第一章で出てきた彼女の名前がチラリ。
彼女の存在も気になります♪
では、今章を振り返っていきましょう。
感想&考察レビュー (以降、ネタバレあり)
ここからは『サマータイムレンダ』および『~未然事故物件』に加え、『~小説家・南雲竜之介の異聞百景(第1~3章)』の内容に触れているので未読の方はご注意下さい。
主なトピック
※クリックすると該当項目へ
呪われた絵画
平日の昼時。ひづるは取材のため、母校の学食で食事を取っていた。
母校
新作に学食の描写があるから見てみたい、とひづるが言ってきたのがきっかけだった。翌日には波稲の通う東京大学の学食にひづるがやってきた。もともとはひづるも通っていて、波稲とは学部も同じだった。つまり先輩だ。
by 南方 波稲『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
小説『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』で、ひづるの出身大学に触れられたのは初でしょうか。
ひづるも波稲と同じ東京大学出身です。
それも、理学部物理学科卒と、波稲と同じです。
そりゃあ、話が合うってなものです(笑)。
コミック『サマータイムレンダ2026 未然事故物件』の巻末「記憶#001」には、波稲は「理学部物理学科」、ひづるの箇所には「物理学を修めており、波稲は後輩となった」とあります。
ひづると波稲は、学部どころか学科も同じですね。
「与えた分と同じだけきっちり返ってくるこの学食の感じ、私好きなんよ」
「学食の内装が少し変わっているが、私が通っていたときも似たような雰囲気だったな。いいぞ、だんだん思い出してきた。やはり来て正解だったな」by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
1990年生まれのひづるは、2026年だと36歳。(未然事故物件)
大学卒業後来てないのなら、13、14年ぶりの母校。
そりゃあ、覚えてないですよね。
現実はどうか知りませんが・・・
大学の学食って学生じゃなくても入れるのですね。
この後、担当編集の強羅も入ってきますし(笑)。
となると、第1章「危機回避倶楽部」の最初の予知。
これも、やはりエキストラが入り込んでいたと考えるのが妥当ですね。(第一章)
担当編集 強羅
はい、と強羅が返事をして、菓子袋のなかから、プラスチックケースに入った何かの機材を取り出す。見るとカメラだとわかった。
「小型の監視カメラ。先生が新作執筆のために実物を見たいとメールを送ってきて、その直後に調達しましたよ」
「・・・・・・なるほどな」by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
ひづるが執筆の為に調達させた小型カメラ。
これが、今回の事件に大いに役立つのです。
2026年の小型カメラがどれだけ小型なのか。
でも、見るとカメラだとすぐに分かる!?
絵で見てみたい!(笑)
それにしても、「なるほどな」の前のタメが気になりますね。
ひづるはカメラの入ったケースを持ち上げ、無表情でつぶやく。妙に間があったような気がしたが、気のせいだろうか。
by 南方 波稲『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
波稲も気にしているということは、(作者が)意図的に描いています。
ひづるは、小型カメラを見て、何を考えていたのでしょうか・・・。
季節は秋
「亡霊つきの車に気をとられたので今月はあまり進んでいない」
「亡霊?なんですかそれ?というかこの前も何か取材してませんでした?」by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
「亡霊つきの車」とは第二章「ゴースト&ドライブ」のこと。
骨とう品店へ行くのにシュミットで移動していることから、今は、事件解決後だと思われます。
週末、ひづるが例の骨とう品店に行くというので、波稲もついていくことにした。放課後に待ち合わせ場所の駅で待っていると、ロータリーに黄色のシュエットがすべり込んできた。運転手は一人しか思い当たらない。どうやら電車は使わないらしい。
by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
ひづるが、当たり前のようにシュミットを足として使っているのが、なんだか嬉しいですね♪
第二章「ゴースト&ドライブ」の開始時期は10月でした。(第二章)
前の持ち主の事故修理と受け渡し手続きで1ヶ月、ひづるの車になってからも事故を起こしたので、事件解決は2ヶ月近く経っている可能性もあります。
となると、第三章は12月に入っていてもおかしくはないですが、師走の気配は見られないですね。
なので、第三章のスタートは、11月といったところでしょうか。
それはそれとして──
第一章でも第二章でも、事件解決後、いいアイデア(刺激?)を得て、南雲先生の執筆は進んでいると思ってましたが、どうやら担当編集を悩ませているのはいつも事のようですね・・・。
ちょっと強羅が不憫に思えてきました(苦笑)。
呪われた絵画
「呪われた絵画」
「そうです。購入し家に飾った人物が、必ず不幸になる絵画があるというんです」by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
なるほど、こう来ましたか。
本作はひづると波稲が奇妙な出来事に遭遇する異聞百景物語。
とは言え、ひづるは探偵でもなく、波稲がオカルト研究会に入っているわけでもありません。
普通?の二人が、どのようにして怪奇現象に直面するのかも本作の見所なのです。
今回は、ひづるの担当編集からの情報提供。
ベタな展開で来ましたね~~と思ってました。(失礼っ!(笑))
が、解決編まで読むと分かります。
なるほど。
ひづるの本名と小説家「南雲竜之介」の名前の違いを犯人証拠として使うために、強羅を起点にする必要があったのです。
ひづるの正体を、強羅から情報漏洩させるために(笑)。
損な役回りですね、強羅は。
いや、便利な立ち位置かな(笑)。
情報漏洩
「強羅くんから聞いてますよ。店主の飯田です。ようこそ南雲先生。いや、あのミステリ作家がうちに来てくださるなんて光栄です」
「あのアロハ、余計な紹介の仕方を……」by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
覆面作家として活動するひづるにとっては、自身が小説家・南雲竜之介であることは極秘中の極秘。
作品の時代設定は2026年。
今より、ネットやSNSは発展し情報伝達速度は速くなっているでしょう。
なのに、ひづる本人の許可も取らずに、他人に教えるなんて担当編集失格ですね(苦笑)。
再現率100%
気になっていた購入ルール。ひづるが興味を抱くことになったきっかけの一つでもあるそれが、ついに明かされる。
「なんらかの怪奇現象に見舞われてもこちらは責任を一切負いません。それから、返品は受け付けますが、返金は受け付けません。軽はずみに購入されていく方に少しでもご遠慮いただくためのルールです。ご理解ください」
「承知している。購入させてもらおう」by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
今回は、第二章「ゴースト&ドライブ」のように、何人が所有者になったのかは出てきません。
だけど、絵が骨とう品店にあるという事は、毎回絵が戻ってきている証拠。
絵は、現金一括払いで50万円。
返金されない、つまり50万円は戻って来ないのに、皆返品している。
このルールは──
金はいいから、とにかく返品したくなる程の怪奇現象が所有者全員に起きてきた、と証明しているのです。
ひづると波稲が大好きな、再現率100%が起きているのです。(第二章)
だから、ひづるが興味を持ったのです。
「我慢できない。やっぱり直接持って帰る」
ではそのように、と飯田が返事をする。梱包を待っている間、波稲とひづるは店内を適当にうろつくことにした。ひづるはそわそわと落ち着きなく、動物園の檻にいるトラのように、同じ場所を行ったり来たりしていた。わきあがる好奇心を抑えられていない様子だ。そして気づけば、波稲も同じような動きをしていた。
「ふふふ、楽しみだ。どんな怪奇現象が起こるか」
「亡くなった作者が、あの絵になんか恨みでもこめたんかな」
「死の直前に何か壮絶な体験をしていたという可能性もある」by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
まるで、新しいおもちゃを手に入れた子供のような二人。
車で来たので、最初から持って帰るつもりだろうと思ってましたが、ここで住所を残していく行為が必要だったのが上手いですね。
興奮を抑えられないのに、冷静に罠を張る。
南雲先生、流石です!
送り状に住所記入途中で止めましたが、名前までは記載しなかったのでしょう。
だから、店長が「南方」姓を知っていることを、後に突けたのです。
でも、住所は部屋番号まで記載しないと、店主がピンポンダッシュできません。
つまり、住所は最後まで記載して、名前を記入する前に止めた、ということですね。
怪奇現象
ひづるが購入した「呪われた絵画」を波稲の部屋へ飾り、ひづるも波稲の部屋で夜を過ごす。
毒物
鮮やかな色が出るという理由で、毒物が含まれている顔料は意外に多い。こういう呪いの絵画にはつきものの仮説だよ。古典的でつまらないシナリオだが、幻覚や 嘔吐、手足のしびれ、呼吸困難。どれも気化した毒物を吸い込んだときの特徴にあてはまる
by 南方 ひづる『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
「顔料」とは絵で使われる絵の具のこと。
絵の具に毒が含まれた物があるのは、現実世界でも本当の話。
意図的な殺人ではなく、絵の具に含まれる毒物が人体に影響を与えてしまう事故・事件は、現実世界でも起きています。
顔料に毒物が含まれていると分からない時代は、本当に「呪われた絵」としていわく付きになったそうです。
なので、ミステリー物で殺害方法の一つとして昔から使われています。
これが、ひづるの言う「古典的でつまらないシナリオ」の意味ですね。
本作が特徴的なのは、実際に自分たちで調べるところ──
「これを使いたかった。ガスクロマトグラフ」
「溶液や気体の成分を分析してくれる機械。さっそく調べようひづるちゃん」by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
毒物を扱うので、安全な作業とは言えません。
調査など、警察に任せれば良いと思うのですが(笑)。
通っている大学にその設備があり、友達を通して使っても良いとは!
であれば、自分たちで調べよう。
という、理系精神が逞しいですね。
呪われた絵画 解決編
「呪われた絵画」で幻覚を見る理由は判明。だが怪奇現象はそれだけではなかった。二人は再び骨とう品店へ行く。
スリングショット
「うん。この前来たときにあったものが一つだけなくなってる。そこにあった、スリングショットが。窓を打つのに使ったみたいだね」
指さす先、甲冑と短剣とボウガンが飾られた間に、ちょうど一つ分だけ、台座に物を置ける空間があった。by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
「スリングショット」
ゴムで弾を飛ばす構造の道具。
スリングショットを玩具にしたものが「パチンコ」です。
波稲の映像記憶発動!
骨とう品店の雑多に陳列された商品を全て記憶していたのです。
「スリングショット」とは、パチンコを本格的にしたもの。
現代では鳥獣害対策で使われますが、古くは武器として使っていたので、骨とう品店では短剣やボウガンと一緒に並べられていたのでしょう。
スリングショットで弾を飛ばして窓を叩いていたというわけです。
呪いのビジネスモデル
「か、監視カメラって・・・・・・普通じゃない」
「訂正させてもらうなら、世の中に普通の人間など存在しない。ただ平凡な人間がいるだけだ。そして貴様はその部類に入る。呪いの絵画の噂を流し、怪奇現象を演出し客を怯えさせる。最後には返品させて、代金だけをせしめる。そういう平凡な店主だ」by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
「呪われた絵画」は、店主が仕組んだビジネスモデルだったのです。
「呪われた絵画」の噂を流して、好奇心で購入した客に、店主が怪奇現象を演出する。
絵を返品するまで続ける。
返品されれば、絵は次の客へまた売れる。
怪奇現象に悩まされた客は、周囲に「呪われた絵画」を宣伝する。
よく考えたものです(笑)。
まあ、理屈は第一章「危機回避倶楽部」の予知をマンパワーで実現させていたのと同じですが(苦笑)。
となると、強羅に「呪われた絵画」を、1日貸し出したのも布教のためですね(笑)。
出版社ともなれば、ひづるのような好奇心旺盛な人と接点が多いでしょうから。
強羅が、いや、強羅の先にいる人が狙われたのです。
にしても、犯罪者に向かって「平凡な人間」と言い切るひづる。
カッコイイですね!
呪われた絵画 解決編2
犯人逮捕で事件は解決したかにみえたが・・・。再び波稲を怪奇現象が襲う。
ミサキ!?
「そういえば夜の用事ってなんやったん? 取材?」
「そんなところだ。ミサキと会っていた」
ミサキ。誰のことだろう、と思い出すのに数秒かかった。- 中略 -
「なんであのひとのところに? ていうかいまどこにおるん?」
「拘置所。面会に行ってきた。聞きたいことがいくつかあったから、その確認に」
「聞きたいことって?」
「いずれ話すよ」by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
待ってました!ミサキ!
ミサキは第一章「危機回避倶楽部」でミスター・レイの予知を裏で操っていた黒幕。(第一章)
ひづるが「会っていた」と言うから、出所したのかと思ったら、まだ「拘置所」にいたのです。
「拘置所」
刑がまだ確定していない「未決拘禁者」、死刑執行されるまでの「死刑囚」を収容する場所のこと。
ミサキの場合は、人を殺した説明はなかったので、刑がまだ確定してない「未決拘禁者」でしょう。
第一章では、波稲が鈴竹の食べたことだけがトリックが分からず。
誰も話してないのに、ひづるの正体を知っていた。
ミサキの力だけは本物なのでしょうか?
ひづるがまた会いに行っているということは、本物の可能性が高いのでしょうか。
それとも、何か情報を持っているのでしょうか。
珍しく、波稲の質問をはぐらかす、ひづる。
でも「いずれ話すよ」と言っているので、近いうちに出てくるのでしょう。
そういえば、第四章のサブタイトルは「ナンバーワンのファン」。
そして、ミサキが第一章で最後に残した言葉は(第一章)──
くれぐれもファンには、お気をつけください
by ミサキ『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
当然、繋がってくるのでしょうね~~
第四章が楽しみになってきました♪
教訓
「ずいぶん気が抜けてるな、波稲」
「んー、ひづるちゃんのアイデアを聞いてから、ちょっと緊張がゆるんだかも。納得いったのと、今回は自分の動揺ぶりがちょっと恥ずかしかったわ。ちゃんと教訓にする。異常なときほど、客観的に、俯瞰的に物事を観察するべきやんな」by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
もう一人の真犯人が来るのを見張っているのに、あんパンを食べる波稲。
完全に緊張感がなくなっています(笑)。
ひづるの推理を聞き、波稲の部屋に起きた現象は、呪いではなく人為的な物であると確信し、腑に落ちたからですね。
人は、理解不能な出来事に直面すると不安になるし、理屈が分かっていれば冷静になれるものです。
異常なときほど、客観的に、俯瞰的に物事を観察するべきやんな
by 南方 波稲『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
異常なときほど、冷静に、客観的に物事を考える。
これは教訓にすべきですね。
さりげなく出てきましたね「俯瞰」!
俯瞰と言えば、慎平の得意技!
『サマータイムレンダ』では主人公・慎平が危険な目に。
『サマータイムレンダ2026』では、波稲が何度も不可解な現象に直面。
第二章の車の暴走は、一つ間違えれば死んでいたかもしれないですからね。
感覚派ではなく、頭脳派登場人物は、慌ててはいけないのです。
真犯人は二人
呪いを演出していた人間は二人いた。客に返品させ、購入代金をせしめようとした店主の飯田。それから絵画の作者である、クリス。
「飯田さんが逮捕されたことを知りました。呪いが彼の自作自演であることも前からなんとなく気づいていました。彼が逮捕されれば絵も押収されてしまう」
「それで波稲に手放させようとした」by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
呪いを作り出していた犯人は二人いたのです。
骨とう品店、店主の飯田。
絵画の作者、クリス。
二人が協力し合ったわけではなく、違う場所で起こしていたのが面白い点。
骨とう品店店主を追い詰めたとき、少し違和感がありました。
ひづるの住まいを突き止めたのは、送り状に書いた住所から。
でも、波稲の住所はどうやって入手したのか?
初日は、毒物の影響で幻覚を見ただけだと思ってました。
店長は、きっとひづるのマンションで自作自演、つまり空振りしていたのだと。
ところが、波稲が朦朧としていた時の描写には──
叫ぶと同時、明かりがついた。ひづるが立って明かりのスイッチを入れてくれていた。息を切らし、ふらつきながら、首元を押さえている。
がたがた、と、突然窓が揺れ始める。インターホンの音も聞こえた。断続的に何回も押され続けていた。
ひづるに視線を戻したところで、波稲は思わず悲鳴を上げた。by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
初日も、インターホンは鳴らされていたのです。
それも、波稲の部屋で。
店長でなければ、誰がやったのか?
もう一人の犯人・クリスは言いました──
「どうして私のところに? 絵はひづるちゃんの家にあったのに」
「私の勘違いです。絵画を買った初日、あなたがたがこちらのマンションに入るのを見たので」by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
クリスは、ひづるが絵を買った日に尾行して、波稲のマンションを突き止め、その夜、怪奇現象を起こしたのです。
「飯田さんが逮捕されたことを知りました。呪いが彼の自作自演であることも前からなんとなく気づいていました。彼が逮捕されれば絵も押収されてしまう」
「それで波稲に手放させようとした」by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
骨とう品店店主が、呪いを自作自演していることは以前から気付いていた。
逮捕されれば絵が没収されてしまう。
いずれ逮捕されるだろうと踏み、絵を手放させたかったのです。
サプライズ
彼女にプレゼントするはずだったこの絵画に、クリスはプロポーズに贈るための指輪を隠していた。それは彼女に渡されることなく、長年眠り続けてしまった。クリスは絵画と指輪、その二つを回収したかったんだ
by 南方 ひづる『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
絵画の中に隠した指輪。
なぜ、そんな面倒な、いや、絵を破らなければ取り出せないような隠し方をしたのでしょうか?
それは彼女を驚かすための隠し場所だったのではないでしょうか。
彼女に絵をプレゼント。
彼女から、左手の薬指に指輪を付けている間違いを指摘される。
これはいけないと、彼は、絵にナイフを突き立てる。
いや、そこまでしなくても!?
と驚く彼女に、そこから本物の指輪を出してみせる。
指輪を彼女に見せて、プロポーズ──
実に、画家らしい、画家にしかできないサプライズですね。
ところが、絵をプレゼントする前に、彼女とは別れ。
絵に隠された指輪を取り出すことなく放置していたら、骨とう品店に絵を買い上げられた。
ところが──
最近、彼女が亡くなったことを知りました。病を抱えていたんです。別れたのはそれが理由だったのかもしれない、と彼女の両親から聞かされました。だから手放した彼女の絵と、指輪を、手元に戻したかった
by クリス『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
彼女が亡くなったことを知り、彼女を愛したときの思いが込められた絵と指輪を取り戻したくなったのです。
クリエイターの性
ひづるや波稲が絵を手放そうとも、絵は骨とう品店に戻るだけ。
作者であるクリスの手元には戻りません。
ならば、先に店主に自首を勧めるか。
店主が言うことを聞かないなら、(聞かなさそうなタイプでしたね(笑))警察に通報した方が良かったと思うのですが・・・。
自分の作品で注目を浴びたのは、これが初めてだったんです。最初は戸惑ったけど、誰かがこの絵画の存在を知ってくれるのはうれしかった。それに、怪奇現象を起こしていれば、彼女がふざけた僕を怒りに来てくれるんじゃないかって
by クリス『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
呪われた絵だろうとなんだろうと、自分の絵が世間の注目を集めているのは嬉しかった。
自らの手で止めることができなかったのです。
ましてや、モデルは、今も愛しているだろう彼女。
絵だけでなく、彼女が認められている気分になっていたのかもしれないですね。
結果、呪いの手伝いをする形になってしまったのです。
クリエイターの性ですね。
金を積んでも手に入らない
ひづるが前に話していたことを波稲は思い出していた。金でほとんどのものは手に入るが、すべてではない。死んだ人間は金を積んでも生き返らない。そしてもう一つ、誰かからもらう愛も、金だけでは手に入らない。
by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の見聞百景』では、大学生になった波稲が、1章ごとに何かを学んでいきます。
第一章では、友情。
第二章では、仕事観。
そして第三章では、「誰かを愛する気持ち」でしょうか。
波稲が恋をするわけではありません。
誰かを愛する気持ちを、画家クリスから感じ取ったのです。
同時に、感情が入らなければ創作物はできないと痛感します──
「『窓辺の彼女』か。よく描けているじゃないか」
「ただの模写やもん。記憶のなかの映像をなぞってるだけ。感情がこもってる感じがせん。あーあ、私も五〇万円の値打ちがする絵とか描いてみたかったな」
「画家の感情までコピーできればよかったがな」
「ほんまやな! そんなんできたらコピー人間になってまうけど」by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
「コピー人間」と聞いてニヤリとしたのは、私だけではないはず!(笑)
『サマータイムレンダ』で苦労させられた、影のコピー能力。
ひづるさん。
あなたは、そのコピー能力で散々な目に遭わされたのですよ(笑)。
波稲さん。
あなたは、前世でその力を存分に使っていたんですよ(爆)。
そんなこともつゆ知らず。
ほのぼのと冗談めかして話す二人が微笑ましい。
影のコピー能力であれば、姿形だけでなく記憶を完全コピーするので感情も再現可能。
その状態なら、画家本人の才能まで再現できるのでしょうか?
これは、いつか検証して欲しいですね!(笑)
波稲は一度見た映像を記憶し、再現する能力にも長けてます。
コミック『~未然事故物件』では、写真のような絵に、ひづるは感心していました(未然事故物件)──
驚いた──絵がさらに上達して、まるで写真プリンターだ。
by 南方 ひづる『サマータイムレンダ2026 未然事故物件』
それだけの腕を持つ波稲でも、「窓辺の彼女」を描くとただのコピーになってしまうというのです。
やはり、感情が入らなければ良い創作物はできないということですね。
そんな時は、誰かを思いながら描くと良い──
どうせ感情をこめるなら、やっぱり愛がよかった。
頼れる家族。そして一人の女性として憧れる姿。
波稲の手元が動き出す。速度にばらつきはあったが、さっきよりもとても軽く、スムーズに筆が進んでいく心地がした。
「お、ええ感じ」by 『サマータイムレンダ2026 小説家・南雲竜之介の異聞百景』
波稲は、目の前にいる憧れの女性を思いながら筆を進める。
波稲にとって、ひづるは良いロールモデル(目標)。
乱暴だけど優しく。
破天荒だけど理に適っている。
変わり者だけど共感できる部分も多い。
ますます二人のバディ感が増しているのです。
父・竜之介に知られたら、全力で止められそうですが(笑)。
おわりに (『サマータイムレンダ2026』第三章とは)
今回は犯人もトリックも想定の範囲内。
何せ、仕組みは第1章「危機回避倶楽部」と同じマンパワーでしたから(苦笑)。
画材に毒が混じっているのもミステリー好きなら知っている知識。
額縁だったとは言え、直球ですね。
ただ、マンパワーだろう思っていても、幻覚を見るシーンや手形のシーンはゾクッとしました。
波稲一人称で描かれるので、小説ならではの感覚共有でした。
画材の毒に関しても、ネタは鉄板にしても、その解析を自らの手でやるのが面白い!
主役2人が理系女子ならではの展開ですね。
何より、”如何にも”という怪奇現象でも、「呪われた絵画」を見ると好奇心は抑えられない様子に引き込まれます。
やはり、本作は──
怪奇現象を通じて、二人のやりとりを見れるのが一番の魅力ですね。
さて、次章はついに最終章!
すっかり良きバディ感を出してきた二人。
ミサキも登場して、何か面白い・・・いや、不吉な予感がします。
楽しみです!
以上、小説『サマータイムレンダ2026』第3章の感想&考察レビューでした。
超長文にもかかわらず、最後まで読んで頂きありがとうございます。
第4章のレビューも書いています。
良かったらご覧下さい。
ではでは。
ドアを開ける前に覗き穴で確認しましょう
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