バビロン

小説【バビロン】1巻感想(2/3) アニメでは描かれてない文緒のメールには署名、女を任意同行した理由

バビロン 2話

こんばんは。時文です。
バビロン』1巻の感想レビュー(2/3)です。

原作1巻は、TVアニメ1~3話に相当。

本レビューではアニメ2話に相当する部分を対象とします。
次話以降のネタバレは「なし」なので、ご安心を。

アニメ化された部分の感想はアニメ各話レビューをご覧下さい。
※以下、表内のリンクから各レビューへ行けます。

バビロン (全12話)

話数 サブタイトル レビュー 原作巻数 ページ数 レビュー
第1章 「一滴の毒」
第1話 疑惑 1話R 1巻 136P 1巻R①
第2話 標的 2話R 93P 本レビュー
第3話 革命 3話R 83P 1巻R③
第2章 「選ばれた死」
第4話 追跡 4話R 2巻 128P 2巻R①
第5話 告白 5話R 49P 2巻R②
第6話 作戦 6話R 72P 2巻R③
第7話 最悪 7話R 53P 2巻R④
第3章 「曲がる世界」
第8話 希望 8話R 3巻 56P 3巻R①
第9話 連鎖 9話R 67P 3巻R②
第10話 決意 10話R 79P 3巻R③
第11話 開幕 11話R 93P 3巻R④
第12話 12話R 50P 3巻R⑤

はじめに

本レビューは「アニメ」⇒「原作小説」の順で見た「原作の感想レビュー」です。

アニメではカットされたシーンや、原作との違いを取り上げます。

アニメはアニメならではの良さがありますが、キャラクターが考えている事や感情の描写はどうしても情報が少なくなります。

原作小説は主に正崎一人称で描かれ、心情描写がとても丁寧に描かれています。
正崎の内面を知ると、より作品を理解できます。

原作の魅力を全て伝えることはできないと思いますが、少しでも作品理解の助けになれば幸いです。

原作小説の情報量は、想像していたより膨大でした。
私が取り上げたのはごく一部で、原作にはもっと楽しめる箇所があります。
アニメとは違う魅力があるので、アニメ鑑賞後でも楽しめます。
オススメです!

本レビューの内容
  • アニメでカットされた原作部分
  • アニメオリジナルシーン
  • 原作を読んで分かったこと

見出しの頭にアニメオリジナル、原作のみの記号を記載したのでご参考に。

  • ア):アニメオリジナルシーンに関する記述
  • 原):アニメではカットされたシーンに言及

では、小説の内容順(時系列順)に紹介していきましょう。

原作感想レビュー (TVアニメ第2話 相当分)

原) 文緒は「特任検事」を目指していた

文緒は正崎に尋ねる。
「正崎さんにとって、検事の仕事って何ですか?」

アニメは文緒との印象的なシーンから始まります。
これはてっきりアニメオリジナルシーンかと思ってました。

原作は、内容こそ違いますが、同じように正崎が文緒のことを思い出すシーンから再開します。

文緒が”なにやら”昨夜遅くまで頑張っていたことをアピールする。
正崎は軽く受け流していたが、文緒は我慢できずに自分から言い出す。

勉強ですよ!

三度眉根を寄せる。いったい何を勉強しているというのか。そろそろ物読み漬けの毎日に嫌気がさして、資格でも取って転職しようとでもいうのか。

「それは秘密です。だって聞いたら正崎さん、きっと感動して泣いちゃいますからね。いや泣かないですかね・・・やっぱり気持ち悪がるかな・・・いやいやいくら正崎さんでもそこまで酷くは・・・」

by 『バビロン』小説1巻より

これが、前回レビューで紹介した文緒が「特任検事」を目指していることに繋がります。

特任検事」「副検事

検察事務官(現在の文緒) ⇒ 副検事特任検事

「特任検事」は、検察事務官にとり出世コースの到達点

正崎が文緒と組み始めたとき、彼は「副検事」になることすら嫌がっていた。
さらにその上の「特任検事」を目指すと言うのだ。

だから文緒は、正崎が知ると「気持ち悪がる」と思ったわけです。
案の定、正崎は不気味がるのですが・・・

というのも──
文緒は正崎と組む前の仕事で、「特捜の検事だけは嫌だ」と毛嫌いしていたのです。

ところがこの2年間。
つまり正崎と仕事をして「検事は正義の味方だ」と思い出し、「正崎のような検事になりたい」と決心したのです。

それが、僅か数日前・・・

アニメ鑑賞時、文緒の性格からして自殺などしないと考えている解釈してました。
原作ではそれに加え、上を目指していた人間が、突如自殺などするはずがない、と言うことなのです。

原作では、文緒が炒れたコーヒーの香りが、(文緒の通夜の)”お香”の匂いに変わっていくのが悲し過ぎます・・・

原) 文緒の母親との会話

文緒の通夜に参列する正崎。
アニメでは、正崎と守永との会話のバックで絵として描かれますが、原作では母親とも会話しています。

文緒の通夜は、家族からは親類のみの密葬としていたが、正崎たちは参列を希望し許された。

正崎は母親から呼び止められる。
母親に対し、24歳の若さでこの世を去った息子のことで、言い訳はもちろん、何も話せない・・・

どんな言葉も「受け入れよう」と正崎は心づもりしていた。
ところが・・・

「(文緒)厚彦は、よく貴方の話をしていました。検察事務官になってからの厚彦はいつも疲れていて、仕事があまり楽しくなかったようでしたけど・・・この二年ばかり、貴方のお仕事を手伝うようになってから、あの子は少し変わったように思います

母親は、正崎よりもさらに深く頭を下げた。

by 『バビロン』小説1巻より

この後の母親のお礼も心に刺さります。
良いシーンなので、ぜひ原作をお読み下さい。
ここはアニメでも見たかった!

注目すべきなのは、時折実家に帰ってくる様子を見て、母親は息子が仕事にやりがいを感じていることを感じていたのです。
やはり、文緒が自殺するなどあり得ないのです・・・

文緒の母親も素晴らしい。
気丈に振る舞い、息子の自殺など信じられないでしょうが、正崎のことを信じているのでしょう。
職場や上司を責めないのです。

これはこれで、正崎の心に刺さるのです。
真実を突き止めねば、と。

原) 正崎は組織的犯罪を想定

「まだ若かったとはいえ、文緒は曲がりなりにもプロじゃ。そのプロを捕まえて、ここまで完璧な偽装殺人をやってのけたのだとしたら・・・相手はただもんではないぞ、正崎」

守永の言葉の意味が頭の中に浸透していく。

“相手”と言っても、守永はプロの殺し屋などという漫画じみたものの話をしているわけではない。だが現実に起こったこと、その手際の良さ、犯行の大胆さは、必然的にある一つの想像を呼ぶ。

《組織》

by 『バビロン』小説1巻より

巨大な利権が動く新域構想。
そのトップを決める新域域長選挙。

通常ならこんな時に、殺人を疑われるような行動はしない。
にもかかわらず、関係する者が不審な自殺を遂げる。

これが偽装殺人なら相当な組織が動いているのではないかと正崎は思い至ったのです。

原) 文緒の身分証を借りたのは立会がいないから

文緒の検察事務官の身分証を借りることを、守永へ許可してもらうシーン。

アニメ鑑賞時、私はてっきり、正崎が感傷的になり、文緒の形見として持ちたいのだと思ってました。
その意味もなくはないのでしょうが、もっと合理的な意味がありました。

正崎が検事であることを証明するのは立会事務官の役目だというのは前回レビューで紹介したとおり。

文緒がいなくなった今、正崎が検事であることを証明できないのです。
そこで文緒の身分証を借りることにしたのです。

「・・・今はアグラスの方も立て込んできていて人が回せん。2、3日のうちに立てるから、それまで大それた真似するでないぞ」

「守永さん」
「なんじゃ」
「次の立会が来るまで、これ借りておいていいですか」

-中略-

次の事務官が来るまでは、その証票が正崎を検事として証明してくれるだろう

by 『バビロン』小説1巻より

正崎は心の底は熱い男。
表には出しませんが、文緒の無念を晴らすためにも、彼の身分証を携帯したかったのでしょう。

この後のシーンで、仕事以外でも傍らに置いていることからも伺えます。

ちなみに、女の事情聴取の時についた事務官(奥田)。
事情聴取は検事一人でするわけにはいかず、一時的に奥田を付けたようです。
奥田は優秀なので、正崎は正式に自分の立会事務官にしたいとまで考えるが、女の聴取のあと様子がおかしくなったので、叶いませんでした。

ア) 平松絵見子 事情聴取が並行

アニメは序盤から平松絵見子の事情聴取シーン。
原作では時間経過通り。

事情聴取シーンと、捜査状況を並行して見せたのはアニメオリジナル

恐らく、時系列に描写すると、後半はずっと事情聴取シーンとなり動きがなくなってしまうからでしょう。

原) 文緒のメールには本人だと証明する印があった

正崎は、文緒が自殺するなどあり得ないと断言しながらも、状況からは他殺の可能性は低いと言わざるを得なかった。

正崎は、通夜の翌日、文緒の事件について考えを巡らせてます。

首吊りの偽装はかなり難しいと結論づけてます。
工作をした可能性もあるが、正崎がメールを受け取り文緒のマンションへ到着したのは25分後。
25分で、”何の痕跡も残さず”文緒を殺害し、首吊りを偽装し、逃げ去るのは不可能。

では、メールが偽装だったら?と推測を進めます

文緒はメール以外に、家族宛に遺書も残し、筆跡鑑定で本人と確認済み。
もし偽装殺人なら、遺書を残しているのに、わざわざメールまで送る必要はないというわけだ。

では、メール自体に何か意味があり、文緒が誰かに脅迫されて送らされた、ことも検討。

実は、文緒のメールには”署名”とも言えるようなサインがあったのです。

文末の「手紙の絵文字」。
これは「手紙」と文緒(ふみお)の「ふみ」をかけている、文緒特有の印。

しかも文緒は、この印を正崎宛てのメールにしか入れてませんでした。
他の人は知らないのです。

正崎は推測します。
文緒は経験は浅かったが、バカではなく機転の利く頭を持っていた。

もし脅されてメールを書いていたのであれば、このマークを外して正崎に訴えてくるのではないか?

それが実際には、マークが入っている。
それは、文緒が自分の意思で”遺書”を書いたことに他ならないのです・・・

だけど、あの文緒が自殺などするはずない。
正崎の頭は堂々巡りするのでした。

この悩ましさが、正崎の次のセリフに繋がっているのではないでしょうか。

室内に荒らされた形跡はなく、文緒以外の人間の指紋も一切なし。あの夜は間違いなく文緒しかいなかった。

あのバカ、少しは捜査する方の身にもなってみろ

by 正崎善『バビロン』TVアニメ2話より

原) 事件の捜査員は二人・・・

不審な自殺を遂げたのは、これで二人。
医師の因幡信と文緒。

正崎視点で捉えると「連続殺人事件」として大々的に捜査したかったが、現実には二人の死は「自殺」として処理されている。
そして、「自殺」ではないと言える”確実な証拠はない”。

文緒のことをよく知る正崎の感覚だけで捜査させてもらっているのだ。
だから二人でも、いや、九字院の協力を得られるだけでもありがたいと考えてます。

そんな状況の中で・・・

二人の共通認識として、文緒は自殺者ではなくあくまで殺人の被害者として捜査を進める方針を取っていた。あの子は死ぬ人間じゃあないでしょ、と九字院は言っていた。正崎はそれが単純に嬉しかった

by 『バビロン』小説1巻より

温かいですね。

前回のレビューで触れたように、正崎が九字院と知り合ったのは今回の事件。
まだ、知り合って2週間程度の間柄ですが信頼関係が構築されているようで単純に読んでて気持ちいいですね。

原) 大規模犯罪の匂い

文緒が突き止めた女性のマンションから捜査。

少女がいた目黒のマンションの契約名義は野丸の対抗馬・齋開化(いつき かいか)の後援会だった・・・

自明党・野丸-秘書・安納少女-後援会・福山齋開化

「どうもこりゃ、本格的に特捜さんの出番だと思いますよ」
正崎も全く同感だった。

巨大選挙の有力候補者二人の名前が一本の線で繋がったその周囲で不審な死者が二人も出ている。これで何らかの組織が絡んでいないという方がおかしい。大規模犯罪。それこそがまさに特捜部の取り組むべき事件であり、特捜部にしかできない事件のはずだ。

by 『バビロン』小説1巻より

正崎は東京地検特捜部を動かさなくてはならない、と考えます。
そのため用意しなくてはならないものは二つ。

特捜部を動かすために必要なもの

  1. ストーリー
    事件の明確な答えか、少なくとも仮説
  2. 証拠
    情報としての証拠。物的なものでなくてよい。
    つまり”関係者の証言”があればよい。

そこで、正崎は、関係者の中でも最ももろいと考えられる「貢がれた女」に的を絞り捜査してきたのです。

文緒が張っていた少女は、気付かれてしまったので、別の女に狙いを定めたのです。

原) 最新ICT機器を駆使

新聞記者の半田が、情報を掴んでくる。

新域選挙の最中、自明党の支持母体である全医連(全日本医師連盟)と、民生党の支持母体である労連合(東京労連合)が仲良くゴルフをするという。

九字院が追っていた秘書・安納もこれまでとは違う女性を連れ箱根の旅館へ向かっていた。

線が繋がった──

高級旅館で、女が接待をする証拠を押さえようと、アニメでは割とアナログな方法で写真を撮ったりしていますが、原作では、お互いの最新技術を駆使してます。

新聞記者の半田は、ウェアラブルカメラを廊下の壺の裏側に仕掛け、部屋でリアルタイム映像をチェック。

正崎は、小型のGPS装置を女のヒールに仕掛ける。
#GPS捜査は違法です。正崎は違法と分かっていて使います。

なかなかスパイ映画さながら。
この時のやりとりは、相変わらずの正崎&半田お笑いコンビで笑えるシーンに。
興味ある方は原作をどうぞ。

更に、アニメでは、旅館をチェックアウト直後、女に接触しました。
原作では、GPSで位置を把握しつつ自宅に戻るまで手を出しません
住居と思われるマンションの前で任意同行を求めます。

この道中には大した情報はありません。
アニメのように旅館前で接触した方が、テンポもよくなり良いですね。

ただ、アニメ観賞時、この状況でどうして女性に任意同行を求めたのかよく分かりませんでした。
それは原作を読んでも同様。

特段、根拠を示すことなく、捜査をここで終わりにしたのです・・・

根拠を知りたいと思って原作に期待したのですが・・・
次の事情聴取で、正崎が想定していたことが描写されます。
どうやら、女の任意同行は、ある自信があったから踏み切ったと思われます。

原) 任意同行だから強くは言えない

アニメ鑑賞時、正崎の事情聴取は充分威圧的だと思ったのですが、どうやらかなり気を使っていたのが原作の心情描写を読んで分かりました。

だが今回は任意だ。逮捕して連行したのではなく、平松絵見子本人の意志で検察に来たという体になっている。もし本人が帰りたいと言えば引き止めることはできない。36時間というのはあくまで使える時間の最大であり、本人の機嫌を損ねれば5分で終わりになってしまう可能性もある。

つまりこの聴取では、平松絵見子本人ができるだけ協力的になるよう誘導する必要がある。自らの意志でここに留まるように、自分から検察に協力するよう巧みに仕向けていかなければならない。

by 『バビロン』小説1巻より

性的関係を持った決定的な証拠があるわけでもなく、いつでも帰ることができる任意同行という手段を取った。

だから恫喝と言った方法は取れないと認識していたし、正崎は元々恫喝手法を好んでません。
では、どうして平松に対し、どなったり、机を叩いたりしたのか・・・

それは、正崎の作戦ではなく、”本気で”女の発言にイラッとしたのです。

正崎が当初女を引っ張ってきた目論見は、恫喝などしなくても、女をこちら側に取り入れる自信があったようです・・・

原) 正崎は事情聴取で女を取り込む自信があった

正崎は特捜部の検事として、自分と倍以上も年の離れた老獪な被疑者達に多く触れてきた。そんな本物の悪人から見れば、20代半ばの女の子などただの獲物であり、無力な子羊にも等しい。

狡猾な大人達から耳触りの良い話しを吹き込まれ、いいように使われて捨てられる、そういう話は検察にいれば幾らでも聞く。そして今回の事件は、その中でも最悪の類いのものだ。何も知らない少女が選挙の進物にされている。平松絵見子はそんな”何も知らない女”の筆頭だと正崎は考える

by 『バビロン』小説1巻より

あなたは、悪い大人に欺され、利用されているだけだと諭し、検察側へ取り込もうというわけです。

それが、脆くも崩れ去った。
正崎は女を”見誤っていた”のです。
いや、ここでは、この女が異常過ぎたと言うべきか。

原作では、正崎が聴取する前に、奥田立会事務官が事前に必要事項を聴取。
その情報では女は23歳。

23歳の女性を想定して、聴取の仕方を考える。
落ち着いた様子を見ると、25、26歳想定にした方が良い、などなど。

彼女の対応を見て、正崎のイメージを修正していく様が面白い。
なるほど、聴取とはこのようにするのかと、作品とは別の意味で感心する(笑)。

正崎の負け戦ではありますが、事情聴取の進め方、考え方は、なかなか面白い。
この辺も心情描写が描かれる原作は、正崎は女の発言をどう捉え、何を考えているのかが分かり面白いです。

原) 女について分かったことは・・・嘘つき

バビロン 2話

平松絵見子は最初から落ち着き払っていた。
通常、23歳の女性が、状況も分からない中、取調室に入れられただけで平常心ではいられない。

が、この女は違った──

女は正崎が示した事実内容を一切否認。
18時間の聴取でも一切主張を変える”気配すら”なかった。

正崎も、バカの一つ覚えのように「認めなさい」を繰り返したわけではない。
質問の中に罠を仕掛けたり、起訴をちらつかせて精神的に揺さぶったりしたが、全く引っかからないのだ。

確実に言えるのは・・・

あの女は嘘吐きだ。

それだけがここまでの聴取から得られた唯一正確な情報だった。平松絵見子は息をするように嘘を吐き続けることができる人間だ。真実は完全に隠されている。だが嘘を吐いているという事実だけはありありと伝わってくる。それは真っ直ぐにしか生きられない正崎にとっては真逆の質の人間であり、ただ言葉を交わしているだけでも心を削り取られるような、まさに天敵と言える相手だった。

by 『バビロン』小説1巻より

取るべき手段は、通常なら、容疑はなんでも良いので逮捕して勾留。

一度勾留してしまえば、帰りたいと言っても帰ることはできない。
そうなれば特捜部伝統の”技”を使えるというのだ。
#正崎は「強引な手法」は嫌ってます

だけど、証言が欲しいのは、翌日の御前会議に提出するため。
悠長に取り調べしている時間はないのだ。

そこで原作では、司法取引を持ちかけます。
ところが、それもあっさり見破られ、次のセリフに繋がるのです。

「つまり検事さんは私に・・・『安納さんに頼まれて、あの人達と寝ました』って、そう言ってほしいんですね」

-中略-

「名前も知らない人と恋に落ちることだってあるわ」平松は正崎の怒声など無かったかのように平然としている。「ああ、でも」

平松は目の前のネームプレートを指差した。
とろりと垂れた目が、上目遣いで正崎を見据える。

「私はもう検事さんのお名前を知ってしまったから、私が今貴方を好きだと言っても、証明にはならにですけど・・・」

by 『バビロン』小説1巻より

バビロン 2話

ここで、ようやく正崎は理解するのです。

この女は、ふざけているのだ。

言葉の意味のまま、意味もなく、延々とふざけ続けているのだ。こいつは最初から聴取に真面目に取り組む気がない。何にも真面目に取り組む気がない。下手をしたら自分の人生にすら真面目に取り組む気がないかのように思える。だから罪の軽減などにも興味を示さない。常人のもつ損得の基準が適用できない。話が全く通じない。

そんなやつと、どうやったらまともに会話ができるというのか。どうすれば時間までに供述を取れるというのか。理解不能の相手を前にして、まるで宇宙人の供述調書を取らされているような絶望が湧いてくる。

こんな馬鹿げた女を・・・どうすれば。

by 『バビロン』小説1巻より

原) その程度でサインが取れるなら・・・

正崎が万策尽きたときに、女から正崎のことを聞かせてくれたらサインすると言い出したのです。

バビロン 2話

正崎は思考を走らせた。女の要求が何を意味しているのか考えた。だが解らなかった。なぜ自分の身の上話などを聞きたがるのかが解らない。それともこれも無意味なふざけの延長で、真の意図など元から無いのか。読めない。十も年下の女が何を考えているのかが読めなかった。

「聞かせてくれたら、サインしますよ」

正崎は自分の意志で思考を止める。考えたところで正崎には要求を飲むしかなかった。断れば女の供述を取る別の方策を練り直さねばならないが、そんな時間はない身の上話程度でサインするというならばそれに越したことはない

by 『バビロン』小説1巻より

アニメ観賞時も時間がないことはかなり意識していたので、このように自分の中で納得したのだろうな、というのは想像できました。

原作を読んで、その理解が正しかったと解りました。
はい、その考え方は理解できます。

「身の上話程度」であれば問題ないと思ったのでしょう・・・
なんだか、気味が悪いですが・・・

原) なんと身の上話は3時間も続いた

アニメはもちろん、原作でも女からの質問内容はごく一部。
実際には正崎の身の上話は3時間も続けられたようです。

よくもまあ、正崎も我慢したものですね(苦笑)。

正崎は最初、何を話していいのか判らずに履歴書のようなことだけを話していた。すると平松絵見子は自分から質問を始めた。

-中略-

まさに根掘り葉掘りという状態だった。平松は正崎の住所や電話番号のような個人情報までも何の躊躇いもなくするりと聞いてきた。流石にそれは答えられなかったが、平松は断られるとそれ以上は聞こうとせずに、すぐに次の質問に移っていった。

ただ質問に答えていくだけならば、3時間は必要なかっただろう。

だが平松の質問の趣旨は、話が進むにつれて正崎という人間の外郭的な要素ではなく、正崎自身の性格・心情・人間性を問うようなものへと変わっていった

by 『バビロン』小説1巻より

ただ、興味本位で聞いているにしても、執拗な質問の意図が分からないので、気味が悪い。

不気味なのはアニメでも原作でも変わらない。
けれどもアニメは、声優さんの演技とやり取りが秀逸でしたね。

ここで答えた内容が、どうなってしまうのか・・・

ただ単に質問に答えているだけなのに、嫌な気分になるシーンは、気味が悪いほどお見事です!

原) GPSで追いかける!

サインして貰うための調書を作成するのに2時間。
その間、平松には仮眠をしてもらうよう別室へ。
#アニメでは、正崎が執務室へ。

2時間の間に、女は出ていったのです。

奥田がいる前でどのようにして帰ったか解りませんが、任意同行なので帰ると言っていたら追求はできない?

それより、任意同行だったので、監視カメラがない部屋で待機してもらっていたのだ。
ここで任意同行の欠点が出てしまったのです。

ただ、仕掛けたGPSはまだ生きていて、原作では正崎は車で追いかけます。
結果は、もちろんアニメと同様です(苦笑)。

短いですが、かなり白熱する追跡なので、ぜひ原作をお読み下さい!

原) 御前会議での違和感

女から証言を取れなかったどころか、検察が動いている情報を知った女を自由にしてしまった。
考えうる最悪の状況となってしまった正崎。

だけど、御前会議で、なんとか特捜部を動かそうと、頭を動かす。
憔悴しきった体と頭を振り絞って・・・

ところが、御前会議に入ると違和感を感じたのだ。

お歴々の視線が、一検事である正崎に注がれている。

正崎は背筋を伸ばし、その視線を真っ直ぐに受け止めた。まるで値踏みされているだと感じた。平検事の持ってきた案件がどれほどのものか、本当に御前会議で扱うに値するものなのか、それを審査する強烈な視線。

が、その時だった。

正崎の心に、上手く説明できない、一抹の違和感が生じた。理由がわからず目だけで周りを見渡す。見た通りの検察首脳会議だ。お偉方がずらりと集まっている。その面々をよくよく観察して、正崎は気付いた。

誰もレジュメを読んでいない

事前に配布されている、正崎の作った捜査資料を誰も読んでいない。開いている人間すら一人もいない。出席者のほとんどがレジュメを無視して、黙々と正崎を観察していた。そう、まるで。

事件よりも、正崎に関心があるとでも言いた気に

by 『バビロン』小説1巻より

この後は、アニメ同様、自明党の野丸が入ってくる。

一体なぜなのか?何が起きているのか?

それは次回のネタバレになるので、次回で触れることに致しましょう。

おわりに (原作小説『バビロン』1巻とは)

アニメ2話は1話に比べると、かなり原作に忠実になりました。

それでも原作小説の情報量はもっと多く、できるだけ取り上げようと思っていたら1話同様「超」長文になってしまいました(苦笑)。

特に心情描写が丁寧。
正崎が頭の中で、一人ブレストをしているので、原作を読んでより深く作品を理解することができました。

アニメだけでは、正崎が結構独断で突っ走っている印象がありますが、原作を読むとそんなことはなく、いくつかの選択肢の中から絞っている。

今回の場合は、女が常識外だったというのが敗因。
そして、その裏には・・・というのは次回の話。

まだまだ事件の輪郭すら見えてない、そんな印象ですね。

以上、『バビロン』原作小説1巻のレビューでした。
最後まで読んで頂きありがとうございます。

原作1巻の続き部分のレビューも書いているので良かったらご覧ください。
ではでは。

きょうのひとこと

検察の捜査と、聴取、怖いぞ・・・

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