こんばんは。時文(@toki23_a)です。
TVアニメ『バビロン』第3話「革命」を鑑賞しました。
本レビューは小説『バビロン』1巻の感想レビュー(3/3)です。
今話の原作
原作1巻は、TVアニメ1~3話に相当。
本レビューではアニメ3話に相当する部分を対象とします。
作品レビュー 一覧
話数 | サブタイトル | 原作巻数 | ページ数 | 原作R |
第1章 「一滴の毒」 | ||||
第1話 | 疑惑 | 1巻 | 136P | 1巻① |
第2話 | 標的 | 93P | 1巻② | |
第3話 | 革命 | 83P | 1巻③ | |
第2章 「選ばれた死」 | ||||
第4話 | 追跡 | 2巻 | 128P | 2巻① |
第5話 | 告白 | 49P | 2巻② | |
第6話 | 作戦 | 72P | 2巻③ | |
第7話 | 最悪 | 53P | 2巻④ | |
第3章 「曲がる世界」 | ||||
第8話 | 希望 | 3巻 | 56P ※ | 3巻① |
第9話 | 連鎖 | 67P | 3巻② | |
第10話 | 決意 | 79P | 3巻③ | |
第11話 | 開幕 | 93P | 3巻④ | |
第12話 | 終 | 50P | 3巻⑤ |
話数:リンクは各話レビューへ
原作R:リンクは各原作レビューへ
※:8話前半は先の部分が元ネタ。そのページ数(7P)を含む
話数 | レビュー |
全体 | 【ネタバレあり】感想レビュー |
はじめに
本レビューは「アニメ」⇒「原作小説」の順で見た「原作の解説・感想レビュー」です。
アニメではカットされたシーンや、原作との違いを取り上げます。
アニメはアニメならではの良さがありますが、キャラクターが考えている事や感情の描写はどうしても情報が少なくなります。
原作小説は主に正崎一人称で描かれ、心情描写がとても丁寧に描かれています。
正崎の内面を知ると、より作品を理解できます。
原作の魅力を全て伝えることはできないと思いますが、少しでも作品理解の助けになれば幸いです。
原作小説の情報量は、想像していたより膨大でした。
私が取り上げたのはごく一部で、原作にはもっと楽しめる箇所があります。
アニメとは違う魅力があるので、アニメ鑑賞後でも楽しめます。
オススメです!
- アニメでカットされた原作部分
- アニメオリジナルシーン
- 原作を読んで分かったこと
見出しの頭にアニメオリジナル、原作のみの記号を記載したのでご参考に。
- ア):アニメオリジナルシーンに関する記述
- 原):アニメではカットされたシーンに言及
では、小説の内容順(時系列順)に紹介していきましょう。
原作感想レビュー (TVアニメ第3話 相当分)
原) 御前会議での違和感
さて、前回レビュー で投げっぱなしだった御前会議での違和感。
お歴々の視線が、一検事である正崎に注がれている。
正崎は背筋を伸ばし、その視線を真っ直ぐに受け止めた。まるで値踏みされているだと感じた。平検事の持ってきた案件がどれほどのものか、本当に御前会議で扱うに値するものなのか、それを審査する強烈な視線。
が、その時だった。
正崎の心に、上手く説明できない、一抹の違和感が生じた。理由がわからず目だけで周りを見渡す。見た通りの検察首脳会議だ。お偉方がずらりと集まっている。その面々をよくよく観察して、正崎は気付いた。
誰もレジュメを読んでいない。
事前に配布されている、正崎の作った捜査資料を誰も読んでいない。開いている人間すら一人もいない。出席者のほとんどがレジュメを無視して、黙々と正崎を観察していた。そう、まるで。
事件よりも、正崎に関心があるとでも言いた気に。
by 『バビロン』小説1巻より
「新域構想」のもう一つの役目。
この日本でできないこと全てだ。
新域とは、新法の試験的運用を行う特別行政区。
いわば「国家の実験場」だ。by 自明党幹事長・野丸龍一郎『バビロン』TVアニメ3話
これだけのことを実行するには、政治家だけではできず、関連組織が既に動いていた。
つまり、御前会議に出席したお偉方は「新域構想」の裏を既に知っていたのです。
正崎が作成した資料の目的である、野丸が他の候補者と繋がり選挙工作していることなど既に知っているわけです。
だから捜査資料の内容など(既知の事実だから)興味がなく、そこまで辿り着いた検事、もしくは仲間にして良いか目利きしていた、ということなのでしょう。
原) ドラッグ・ラグ 未承認薬リストと患者リスト
特捜部、守永部長室。
正崎は、自明党幹事長・野丸から「新域構想」のもう一つの目的を知らされる。
アニメでは淡々と説明されますが、原作ではもう少し詳しく説明されます。
ドラッグ・ラグについては、DF(情報解析官)の調査で、因幡のPCからリストと名簿が見つかります。
一つ目は薬のリスト、特に国内未承認薬の一覧だった。海外では使われてるけど日本ではまだっていうやつね。で、もう一つはそれに付随したものだろうけど、これはかなり個人情報だなぁ。その未承認薬の処方対象患者の名簿。結構膨大な量だよ。国内で、その未承認薬の投薬対象になりそうな人間を一挙にリストアップしてある。どうやって作ったのか知らないけどこれは違法性高いね・・・。いやまぁ患者側には喜ばしい情報なのかもしれないけど。
by 『バビロン』小説1巻より
因幡は既に、未承認薬と、その未承認薬の投薬対象になりそうな患者をリストアップしてドラッグ・ラグの解消に取り組んでいた。
要は、認可されればすぐに取りかかれる準備を整えていたというわけです。
法律違反をして情報収集したようだが、一刻を争う患者の命を考えると、あながち「悪」とは言えないのです。
原) 建設分野の規制緩和
建設業連盟には「建築規制緩和」の大綱取りまとめを頼み
by 自明党幹事長・野丸龍一郎『バビロン』TVアニメ3話
アニメでは建設分野の説明は野丸の一言だけでした。
ドラッグ・ラグ解消に関連していた因幡は事件の渦中。
建設業関連は、関係者の存在感がないから仕方なしか。
が、原作ではもう少し説明がありました。
これが面白い!
「建築分野の規制緩和は向こう5年間の段階的な更新を予定しているが、一部についてはすでに特別措置の扱いで、新域内で限定的に認可されておる。国内第二位の構想建築・新域庁舎には、現状新域以外では使用できない特殊な技術と工法が使用されている。全面的な規制緩和が実現すれば、これまで手を付けられなかった東京の余白の開発が一挙に進むだろう。とかく壁になっているのは現行制度による建築規制だ。これらは一度ゼロベースで見直す必要がある」
by 自明党幹事長・野丸龍一郎『バビロン』小説1巻より
既に新域内で認可を出し、新域庁舎の建築で使われているのです。
このやり方(新域で試行し全国へ広げる)を推進するために建設業連盟に協力を仰いでいたのです。
確かにこれも「良い事」のように見えます・・・
ただ、ドラッグ・ラグにしろ建築規制にしろ、”新域”でやる必要があるのか?
そもそも野丸のような大物政治家が動くのなら、国会議員本来の仕事である法改正を行えば良い。
試行したいというのなら、特区という形でもできるはず。
なのに、なぜ”新域”でやることにこだわるのか・・・
原) 日本の香港を目指している
原作では野丸はもっと語ってます。
新域は中国における香港、マカオのような特別行政区。
グリーンランドのような高度な自治権限が付与される、というのだ。
その中で新域独自の法律”域法”を施行し、運営する。旧弊に縛られた既存の体制から脱却した開拓者として、日本国全体では簡単に進められぬような、より先駆的な新法制の試験運用を行うのだ。
by 自明党幹事長・野丸龍一郎『バビロン』小説1巻より
なるほど。
今の仕組みでは、日本国全土はもちろん、特区だとしても、いろんな勢力、既に既得権益を得ている団体から圧力がかかる。
だから、完全に新域を独立させ、新域だけで有効な法律「域法」として作り、試験運用するというわけか。
賛同する企業にとっては、新域人口200万人という市場で試せるのも有効だし、全国に広がればなお良い。
反対勢力は、域法の成立なので、外からは手を出せない。
そして、新域での試験運用で実績を上げれば、日本の法律として通すときも、説得力が増すので反体勢力を押さえ込みやすいというわけか。
なるほど、これは面白い!
この狙いをアニメだけでも理解できると、より楽しめたと思うのですが。
で、新域長の齋開化は、今話(3話/原作1巻)最後「死の権利を認める」域法を施行。
この新域の独立性を逆に悪用したというわけですね。
原) 齋開化も作り上げられた
齋についても、原作ではもっと語られています。
(前略)
その熱を生み出すためには、市民を強く惹き付ける強烈なリーダーが現れなければならない。人の熱を煽り、集め、一つの目的に向かわせる圧倒的な革命家が必要なのだよ。だがそんな傑物がたまたま生まれるのを待ってなどいられん。ならば我々の手で創るしかなかろうよ」
「創る・・・」
「域長選挙という大舞台。そこで最年少候補の齋開化が、都知事の河野を破り、民生党副代表の柏葉を破り、芸能人の青坂を破り、そして自明党幹事長の私を破って劇的に初代域長となる。若さと実力を兼ね備えた次代の政治家が華々しく誕生する。そこに生まれる人気と熱を、そのまま改革の動力に直結させるのだ」
by 『バビロン』小説1巻より
なんと、単に上位5人の票をコントロールして齋を勝たせるだけではなく、実力者の4人を破っての当選で、強烈なリーダー誕生に仕立て上げるというシナリオを作っていたのです。
これぞ政治!
原) 政治家として大きさを知る
目の前で次々と語られる、良い事のように言っているが、組織犯罪の数々。
正崎は苛立ちながらも、野丸の話に飲み込まれていた・・・
正崎は気圧されていた。野丸龍一郎という男は、自分の行っていることの正しさを信じている。そしてそのためにあらゆる困難を排除し、あらゆる犠牲を払うことをも覚悟していた。政治家である野丸が自ら選挙に落選するとはそういうことだった。それでもこの男は、新域構想という未曾有の計画を自らの手で行おうとしている。
今の正崎は、目の前の野丸という男よりも明らかに弱かった。
思想も、力も。by 『バビロン』小説1巻より
そうです。
野丸は域長選挙に出るために衆議院議員を辞任。
今回の選挙に落ちれば、ただの人になってしまう。
つまり、自分の顔を使って新域選挙に注目を集め、齋をリーダーするため自らを踏み台にし、勢力(票田)を使って、齋を勝たせる・・・
そこまでしても、新域構想を進めようとする政治家なのです。
一検事が敵うはずもありません。
むしろ、その行為と構想を悪用した齋に対して腹立たしくなってきました(苦笑)。
原) 野丸、守永を信じて良い?
アニメ観賞時、野丸の話は衝撃的だったが、筋は通っていた。
二人の不審死に関わってないのは怪しかったが、正崎はひとまず捜査を続ける。
原作では、守永は”らしい”言葉をかけ、さらに証拠をくれます。
これにより嘘はついてないことが分かります。
「犯人を挙げた後はどうする」
「その時にもう一度考えます。貴方達のやっていることの是非を。正義とは、何なのかを」--- (ここまではアニメ化) ---
よかろう、と守永は微笑み返す。
「儂はもういい歳じゃ。この歳になっちまうと今さら考えも変えられん。だがお前はまだ考え続けろ。儂らが正しいかどうか、正義かどうかを考え続けろ。それで間違っていると思ったら弓引けばいい。お前の相手は骨が折れそうだがの・・・」
-中略-
「今は共通の目的を果たそうか」
正崎はその箱に目を落とす。喉から手が出るほど欲した事件の手がかり。
特捜部の捜査による押収資料。「令状で聖ラファエラ大と関係各所からかき集めてきた因幡信の私物だ。お前にはもう隠すこともない。存分に調べろ。因幡と文緒の件の真相を、早急に突き止めるんじゃ」
by 『バビロン』小説1巻より
私が見落としたのか、これまで因幡の調査をするに辺り、資料は手に入っているものだと思ってました。
が、私物はまだ調べてなかった様子。
ここで正崎は新たな証拠を得たのです。
#ここで入手した私物のタブレットから「自殺薬」の研究が見つかります
原) 「発起会」は極秘
正崎は、齋開化の発起会に出席する。
アニメ観賞時、齋の域長就任パーティだと思ってました。
原作を読んで分かったのは、これは極秘に行われた、齋の、いや「新域構想の発起会」か。
集まった全員が”裏の新域構想”の関係者。
野丸が正崎も出席させるよう要望したということは、”裏の新域構想”を知っている関係者を全員集め、共犯だと意識付けるためとも解釈できる。
面白いのが落選した野丸の立ち位置。
域長選挙に落選したことで今や野丸は無職の身である。代議士でもなければ地方自治体の長でもない。肩書きを失ったただの一市民に他ならない。
だが野丸の表情からはそんな陰りは一切窺えない。そして実際にはあの男は今も十二分の影響力を持っているのだろうし、これからもそれを駆使し続けるのだろう。“裏の新域構想”のような超巨大政策を立案遂行する男が、お膳立てだけして大人しく引退するとも思えなかった。
by 『バビロン』小説1巻より
そして齋の扱い。
新域構想とは野丸を筆頭とする政財界の有力者が推進する計画であり、その中では域長というポストすらも単に目立つだけの部品の一つに過ぎない。本物の指導者は裏で手綱を握っている。日本の政治に連綿と続く悪しき伝統は、新しい世界であるはずの新域にも強じんな根を張り巡らせている。
「これからも御指導御鞭撻の程、よろしくお願い致します」
拍手が広がる。手を叩く出席者達は一様に満足気な表情を浮かべている。それは自分達の計画が、自分達の思う通りに進んでいるというご満悦の顔だった。
by 『バビロン』小説1巻より
ここに集まった、野丸たち政財界の有力者は、新域域長の齋ですら、一つの部品。
要は、野丸を筆頭とする者達が立てた計画の傀儡、あやつり人形に過ぎないのです。
ということは、この後起きる、失踪 &「死の権利を認める」域法施行は、完全に「飼い犬に手を噛まれた」わけですね。
これはこれで面白い逆転劇。
一方、アニメではあまり描かれてませんが、原作では──
テレビでは野丸の計画通り、華々しい当選をした齋の人気がこの上なく高まり「時の人」になってます。
まだ選挙の余熱が続いている今は、ワイドショー等で齋と新域は取り上げ続けられてます。
アニメは「対正崎」に関することを中心に据えてますが、他の対立構造も見せてくれれば、また違った印象になったかもしれないですね。
原) 九字院との信頼関係がここでも
野丸たちから聞いたことを、正崎は九字院に話す。
九字院の反応は・・・
アニメ観賞時、かなり危険な内容を、随分あっさり九字院に話すなぁ、と思ってました(苦笑)。
原作では、きちんとこのときの心情描写が描かれてます。
「またどえらいもんの尻尾を踏んじまったもんですね、正崎さん」
正崎から一通りの説明を聞いた後も、九字院の軽い調子は変わらなかった。他の奴ならば解っているのかいないのかと不安になるところだが、この男の場合は全部解った上でこうなのだろうという妙な信頼があった。
だからこそ正崎は、自分の身の上に起きたことをそのまま伝えた。この男相手に隠し事をしながら付き合うというのは無理があると思った。もちろん巻き込むことになると考えないわけではなかったが。
「聞かなかったことにしてくれてもいい」
「そんなら最初から話さないでくださいよ。一度聞いちまったもんを忘れるってのは難しいもんじゃないですか」
「でもお前ならできるだろ」
「そらまあ」by 『バビロン』小説1巻より
九字院は頭の回転が速く、鋭い。
これから捜査をするにあたり、正崎が隠していてもどこかで感づかれると思った。
だから正直に話して、協力を仰いだのです。
つまり、情報提供と共に「ここからは危険だぞ!」という警告をしたのです。
それでも協力してくれるかどうかを。
そして、それに対し、返したくれた九字院の言葉を、正崎は感謝しています。
「とりあえずは聞いたことにしておきますよ。ヤバくなりそうなら(聞かなかったことに変えるんで)、そん時はいい感じによろしくお願いします」
正崎は苦笑した。それは正崎にとって一番ありがたい提案だった。巻き込みたくないが、力は借りたい。そんな矛盾に満ちた要請を九字院は十全に汲んでくれている。百万の味方を得たような気分だった。
※()内がアニメではカット
by 『バビロン』小説1巻より
アニメ観賞時、「そん時はいい感じに」というのは「何か問題が発生したら、特捜の力で九字院を助けて下さいよ」的なことだと解釈してました。
が、違いますね。
アニメではカットされた「一度聞いたことを忘れる」「聞かなかったことに変えるんで」というのがポイント。
九字院がヤバい状況になったら”裏の新域構想”のことを知らないフリをして別の言い訳をするので、その時は正崎も話を合わせろ、ということではないでしょうか。
これで、正崎の矛盾した要望「九字院を巻き込みたくないが、力を借りたい」を叶えることができるのです。
「一蓮托生」と言った情に熱い話ではなく、彼らはプロ。
とてもプロらしい対応をしているのです。
原作を読んでスッキリしました!
原) 文緒が女の部屋の前まで行ったことがなぜ解った?
事件直前の位置情報から、文緒は張っていた女のマンションの部屋の前まで行った可能性があると推測された。
位置情報のズレに、なぜ正崎は今まで気付かなかったのか?そしてどういう仕組みで女の部屋の前まで行ったことまで割り出せたのか。
アニメ観賞時、不思議に思ってました。
原作を読むと完全にではないですが、解りました。
#「完全」ではないのは、私の理解力不足です。
画面にはGPSのログデータが表示されている。それもまたこれまで幾度となく読み込み続けた捜査資料の一つ、文緒の最後の捜査時のログだった。
-中略-
ログは細い道でも概ね綺麗にトレースできていた。思っていたより精度の良い機械だな、と考えた時にマウスを動かす手が止まった。
何かが引っかかった。
なんだ、と自分自身に問いかける。違和感があった。なら違和感の原因は。-中略-
そこに妙な動きがあった。
駐車場から少しだけズレて、また戻っている。駐車場の前の路上あたりにマーカーが飛び出している。そこから十数分後、信号はまた駐車場の敷地内に戻っていた。正崎はこの動きを最初から知っていた。だがそれはGPSの精度の低さによる位置情報の誤差だと思い込んで見過ごしていた。
しかし道路上での精度を考えてからもう一度見てみると、この動きはもしかしたら誤差ではないのかもしれない。
by 『バビロン』小説1巻より
リアル世界でのGPS位置情報でも、誤差はあるもの。
ほんの少しズレたりするのは日常茶飯事。
正崎もそう思っていたが、他のトレースがあまりに綺麗だったのだ。
だから、後で気付いたのです。
これをDF(情報捜査官)に問い合わせ、検定にかけて誤差か本当の動きかを判断。
結果、誤差ではなかった。
次いで、その間の行動まで解るという。
「これはいったいどういうデータなんですか」
「データを拡大解釈して測定できなかった分を予測してるんだよ。だから間違いも出てくるし証拠にもならないけど。いや証拠にならないのはあくまで法制上の問題だけでデータの問題じゃないんだけどね。
-後略-
by 『バビロン』小説1巻より
GPSの仕組みとして、誤差はどうしても出てしまうので、その対処として、いきなり飛んだりすることがないよう丸めます。
イレギュラーかつ少ないデータを無視する仕様になってます。
文緒の場合、マンション内に入ったので、位置情報が十分得られず、結果、駐車場にずっといたように位置表示されてしまったのでしょう。
その無視されたデータを拾い。
位置情報と時間から、普通に通路や道路を歩くという人間の行動パターンを当てはめて、経路を割り出したのです。
私はGPS技術に詳しくないので、現実にこのようなことができるのかは解りません。
が、データが残っていれば、理論的には可能な分析ですね。
少しスッキリしました。
原) 失踪したのは数十人!?
齋が失踪。
原作では、既にテレビの討論番組をドタキャンしています。
どうやら失踪したのは数十人規模らしい。
「何か事件に巻き込まれた?」
正崎は思いついたまま口にした。齋の立場なら可能性は十分ある。
だが守永は表情を濁して「その可能性は低い」と言った。「齋の秘書や会計担当者、選対委員長、その他陣営の側近連中がこぞって消えておる。二人三人ではない、数十人という人間じゃ。一斉に消すというのは無理があるじゃろう」
by 『バビロン』小説1巻より
数十人規模の人間が、極秘の選挙資料を持ち出し、消息を絶った。
だから、事前に準備をした、計画的な行動というわけだ。
原) 奥田の異変に気付かなかったのは、なぜ?
九字院が、女と会った正崎が自殺をしたくなってないか確かめる。
正崎は、ふとおかしな行動をしていた奥田を思い出す。
ここは九字院の指摘を褒めるべきでしょうが、奥田が”あの女の影響でおかしくなった”と考えない正崎に落ち度はないのか?
正崎は少し勘違いしてました。
原作では、女には簡単には分からないような小型GPSを取り付けていた。
そんな状況で、事務官を言いくるめ、検察を出て、GPSに気付き、正崎の追跡を逃れた。
だから、正崎は結論づけたのです。
平松絵見子にGPS発信機のことを教えたのは守永だったのだ。
守永が相手側の人間だったと考えれば、奥田事務官の不可解なミスの理由も説明できる。たとえば守永から「参考人の女を帰宅させろ」「正崎には説明するな」と命令されたなら、上意下達の特捜組織の中ではより上の命令に従わざるを得ない。それならば奥田のあの奇妙な狼狽ぶりにも説明がつく。
by 『バビロン』小説1巻より
あくまでこれは正崎の推測にすぎない。
ちとこれは浅はか。
もしそう推測したとしても、守永に確認すべき。
奥田事務官に確認した様子もない。
これは正崎の落ち度。
一応フォローしておくと、奥田を自分の立会事務官にしてもらえるよう守永に相談するつもりだった。
その時に、奥田に女を逃がすよう指示したのか確認したことでしょう。
が、齋が失踪し、3人の女が同一人物だったという事実に、奥田の話題を忘れていたのです・・・
奥田のことに関しては、正崎も自分の失態を十分承知しているようで、それがあの狼狽ぶり。
原作では「割れんばかりに奥歯を噛んで」と表現されてます。
原) 屋上庭園の安全性は?
新域庁舎の屋上庭園。
ここに60人もの老若男女が整然と並ぶ。
アニメ観賞時、どうやってこんな所まで行ったのか、どうして警察は手出しできないのか、不思議でした。
原作にはしっかり説明されてました。
安全ガラスを越えて。
空中庭園の。
縁に。「現在新域庁舎の空中庭園はエレベーター、階段とも使用不能となっており、警察等も立ち入りできない状況になってますっ。60名余りの人々は午後2時半頃より庭園にて立て籠もり、つい先ほどガラス扉を開けて、庭園の外周縁に一列に並びましたっ。現場は少し風があります。非常に危険な状況です!」
by 『バビロン』小説1巻より
通常の経路は使えず、屋上に立て籠もった。
さらに原作の別の箇所で、空からヘリコプターで近づこうとすると、風で縁にいる人が落ちてしまう可能性があるとの表現が。
つまり空からも近づけない。
だから何もできなかったのです。
では、縁に並ぶまでに手を打てなかったのか?
一列に並んだ人々が隣の人間と話をしたりしている。母親が子供を上下に揺すってあやしている。中には笑い合っているのが判る者たちまでいる。
その雰囲気はとてもではないが、地上数百メートルの高所でこれから飛び降りようという人間には見えなかった。
by 『バビロン』小説1巻より
屋上にいる人々はテンパっていたり、危険な状態ではなく、極めて平常心。
だから、飛び降りるなどとは思わず、強行できなかったのではないでしょうか。
ちなみに落下位置にマットを敷く案も上がるが、新域庁舎は80階地上420メートル。
その高さから飛び降りられるとどうしようもないのです・・・
原) 「第2の火」の意味
私の読解力がないのでしょう。
アニメ観賞時、齋の演説の「火」から「死」への論立てが理解できませんでした。
原作での演説はもっと長く、「火」に関する部分ももっと詳しい。
「太古の昔、人は火を手にしました。
あらゆる生物は火を恐れます。火は自らを焼く危険な存在だからです。
ですが人は、火を管理する術を身につけ、火の危険さを克服しました。
それによってもたらされた多大な恩恵を皆さんも御存知だと思います。夜間行動の促進。加熱調理の発達。外敵からの安全確保。
火を扱えるようになったことで、人の社会と文化は急速に進化したのです。
ですがもし、危険だからといって、火を恐れ、遠ざけるだけの暮らしを続けていたならば。
人は未だに文化を持ち得ない、類人猿の一種のままだったことでしょう。」by 新域域長 齋開化『バビロン』小説1巻より
なるほど、「火」に関して言っていることは真っ当。
あらゆる生物が恐れる「火」を使いこなしたからこそ人間は進化したのだと。
同じように恐れている「死」を受け入れれば、人間はもっと進化できるのだと言うのです。
「火」から「死」への論立てのストーリーは分かります。
が、「火」を受け入れれば享受できるメリットが、「死」には思い浮かばない。
それは、齋にしたら、「火」を受け入れてない「生物」が「火」の有用性を想像できないのと同義かということか・・・
確かにそう言われると返せないかも。
何せ、「死」を受け入れてないのだから・・・
ア) 曲世愛がいたのに追いかけない?
ようやく新域庁舎に辿り着いた時、60人超の人々が次々と屋上から飛び降りた。
そこへ曲世愛の姿が・・・
アニメ観賞時、なぜ手がかりとなる曲世愛を追いかけようとしないのか不思議でした。
が、曲世が姿を視認したのはアニメオリジナル。
原作では、テレビに一瞬写った曲世を、現場に到着した正崎が必死に探すが見つからないのです。
原作のこの流れなら理解できますね。
そして、そのテレビに映った一瞬で正崎は理解したのです。
見間違えようがない。絶対に見間違えるはずがない。それほどにはっきりと浮いていた。集まった群衆が皆一様に困惑と恐怖の表情で空を見上げる中、一人だけ、本当にたった一人だけ、全く違う、あり得ない表情の人間が映っていた。
人が死ぬのを見ている、その女の顔。
突然最後のピースがはまり込む。
-中略-
群衆を掻き分けて正崎は走った。見つからない。正確な場所もわからない。だが今あの女を見つけなければ、必ずまた、人が死ぬ。
by 『バビロン』小説1巻より
屋上庭園にいる人々を見上げる群衆の中に、曲世を見つけた。
曲世は他の人とは全く違う表情をしていた。
つまり、屋上の人々が死ぬことを、いや「死を望んでいた」ことを知っているからこその表情。
曲世が「死を望ませた」と正崎は確信したのです。
正崎は「正義とは何か」をずっと考えてきた。
その答えは未だ出ていない。
が、この日一つだけはっきりしたことがある。
混迷の中心で正崎は叫んだ。
「曲世ーーーーーッ!!!」
あの女は。
悪だ。by 『バビロン』小説1巻より
おわりに (原作小説『バビロン』1巻とは)
アニメ1話は原作をかなりカット。
2話、3話とペースが緩やかになりました。
- アニメ1話:原作136ページ分
- アニメ2話:原作93ページ分
- アニメ3話:原作83ページ分
2、3話でも、結構カットされている部分がありました。
原作では、事件が起きる背景、土壌を丁寧に説明。
設定がとてもよく考えられていることが解ります。
今回は、野丸という政治家の大胆で壮大な計画。
そして野丸自身の政治家としての懐の大きさを垣間見る。
野丸の印象が、アニメだけを見ていた時と、少し変わりました。
悪役ではなく、日本の未来を考える政治家なのです。
そして、齋に失踪され、新域構想を利用される。
一転して野丸は構想を潰された被害者なのです。
さて、ようやく事件の輪郭が見えてきました。
齋の狙いはなんなのか。
また、曲世愛が「自殺を望ませた」ことに絡んでいるのは分かるが、どのような手段を用いたのか?
次巻も楽しみです。
以上、『バビロン』原作小説1巻のレビューでした。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
原作2巻のレビューも書いているので良かったらご覧ください。
ではでは。
結果、野丸は被害者でピエロ。
でも、自業自得とも言える・・・
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アニメ『バビロン』4話のレビューはこちら。
小説『バビロン』2巻①(アニメ4話相当分)のレビューはこちら。
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