こんばんは。時文(@toki23_a)です。
TVアニメ『バビロン』第4話「追跡」を鑑賞しました。
本レビューは小説『バビロン』2巻の感想レビュー(1/4)です。
今話の原作
原作2巻は、TVアニメ4~7話に相当。
本レビューではアニメ4話に相当する部分を対象とします。
作品レビュー 一覧
話数 | サブタイトル | 原作巻数 | ページ数 | 原作R |
第1章 「一滴の毒」 | ||||
第1話 | 疑惑 | 1巻 | 136P | 1巻① |
第2話 | 標的 | 93P | 1巻② | |
第3話 | 革命 | 83P | 1巻③ | |
第2章 「選ばれた死」 | ||||
第4話 | 追跡 | 2巻 | 128P | 2巻① |
第5話 | 告白 | 49P | 2巻② | |
第6話 | 作戦 | 72P | 2巻③ | |
第7話 | 最悪 | 53P | 2巻④ | |
第3章 「曲がる世界」 | ||||
第8話 | 希望 | 3巻 | 56P ※ | 3巻① |
第9話 | 連鎖 | 67P | 3巻② | |
第10話 | 決意 | 79P | 3巻③ | |
第11話 | 開幕 | 93P | 3巻④ | |
第12話 | 終 | 50P | 3巻⑤ |
話数:リンクは各話レビューへ
原作R:リンクは各原作レビューへ
※:8話前半は先の部分が元ネタ。そのページ数(7P)を含む
話数 | レビュー |
全体 | 【ネタバレあり】感想レビュー |
はじめに
本レビューは「アニメ」⇒「原作小説」の順で見た「原作の解説・感想レビュー」です。
アニメではカットされたシーンや、原作との違いを取り上げます。
アニメはアニメならではの良さがありますが、キャラクターが考えている事や感情の描写はどうしても情報が少なくなります。
原作小説は主に正崎一人称で描かれ、心情描写がとても丁寧に描かれています。
正崎の内面を知ると、より作品を理解できます。
原作の魅力を全て伝えることはできないと思いますが、少しでも作品理解の助けになれば幸いです。
原作小説の情報量は、想像していたより膨大でした。
私が取り上げたのはごく一部で、原作にはもっと楽しめる箇所があります。
アニメとは違う魅力があるので、アニメ鑑賞後でも楽しめます。
オススメです!
- アニメでカットされた原作部分
- アニメオリジナルシーン
- 原作を読んで分かったこと
見出しの頭にアニメオリジナル、原作のみの記号を記載したのでご参考に。
- ア):アニメオリジナルシーンに関する記述
- 原):アニメではカットされたシーンに言及
では、小説の内容順に紹介していきましょう。
原作感想レビュー (TVアニメ第4話 相当分)
原) 自殺者は新域住民だけではない
赤坂グランドホテルでの報告。
「齋開化の宣言から24時間が経過し、現在までに報告された日本全国の自殺者数は平常時の4倍の237人にのぼっています」
アニメ観賞時引っかかっていたのですが、自殺者は「日本全国」と言ってます。
「自殺法」が施行されたのは東京都西部の「新域」なのに・・・
まあ、自殺をしても罪に問われないから、新域以外の人も罪の観点からは気にしなかった。
むしろ「自殺法」により背を押された格好になったのだと解釈してました。
原作で、その点にも触れてます。
「自殺者は二つの傾向に別れております」
若い秘書が報告を続ける。
「一つは声明の影響が明確な自殺者で、新域の地域内まで移動したのちに自ら命を絶っています。新域でなら自殺してもよい、と考えての行動と思われます。県境、市の境で自殺を図っている者も発見されました」
-中略-
「もう一つは全国各地で散発的に発生しているものです。(後略)」
by 『バビロン』小説2巻より
そうか。
新域住民だけでなく、“新域でなら自殺してよい”と、新域まできて自殺する人がいたのです。
比較するものではありませんが、タバコの路上禁止条例と同じ感覚なのでしょうか。
ここじゃ吸っちゃだめだけど、こっちならOKとか・・・
実際の所、自殺したから罪に問われるわけではないので、域法など関係ない気もします。
それが、全国各地で散発的に発生するのに現れているのでしょう。
ちゃんと考えられてますね。
抜け目ない!
原) 瀬黒 法務事務次官は雲の上の存在?
アニメでは気さくに声をかけてくれる瀬黒法務事務次官。
原作では、守永部長へ声をかけたところから描かれ、正崎が緊張している様子が描かれます。
「守永」
呼びかけたのは瀬黒法務事務次官であった。正崎は姿勢を正す。法務省事務方の頂点。平検事の正崎からすれば遙か高みにいる人間であった。
「この後で少し」
次官室で、と瀬黒法務事務次官は言った。by 『バビロン』小説2巻より
こんなに偉い人だったのですね(笑)。
確かに広い次官室だったなーー
原) 自殺は違法なのか?
現実世界でも、自殺が罪として立証されているわけではありません。
そのためか、アニメでは当たり前のように自殺は違法ではないと言い切ってます。
原作では、法律面からみても自殺が違法ではないことを丁寧に説明されてます。
これがとても勉強になります!
一部紹介しますね。
自殺は違法行為でも犯罪でもない
では、なぜ犯罪ではないのか?
- 自身が権利を持つものの処分行為であり、それは違法ではない
- 違法ではあるが、罰するほどのことではない
- 罰するべき事柄だが、責任は負わせられない
私は漠然と自殺は違法ではないと考えていたのですが「違法だけど」という解釈もあるのですね。
いずれにせよ、現行法では、自殺は犯罪ではないとの見解。
一つ一つを正崎が、心の中で反すうし、心情描写のなかで解説されています。
興味ある方はぜひ原作をお読み下さい。
勉強になりますよ!
原) 新域庁舎そのものが自殺ほう助のため?
前話(アニメ3話/原作1巻ラスト)、64人があれほどの高さの屋上に、それなりの時間いたのに、止める行為がありませんでした。
原作では、その時の状況を検証しています。
「事件当時、新域庁舎の屋上庭園は立ち入りができない状況でした。まず庭園の入口が外側から施錠されていたこと」
「外? 屋上側から施錠ができるのか?」-中略-
「・・・同様に、屋上へ続く階段も非常扉が閉じられた上に施錠され、内側から開かない状態が作られていました。エレベーターは何らかの操作で停止していました。屋上へは容易に出られない状況が作られていたんです」
「だが、非常扉に鍵というのは・・・」瀬黒は首をかしげる。
「おかしいです」正崎が言い切る。「つまり新域庁舎そのものが、”自殺をほう助するために造られた建物”なのかもしれません」by 『バビロン』小説2巻より
別の箇所では吹き抜けについても、万が一にも助からない構造になっていると正崎は推測しています。
だからと言って証明することはできず、「たまたまそういう構造の建物を、利用されただけ」と言われればそれまでなのです。
ミステリーで言うと、この手の手がかりを深掘りしていくのでしょうが、本作は違います。
残念(苦笑)というか、面白い題材なのに勿体ない!
原) なぜ瀬黒が?なぜ女性が?
アニメではサラッと瀬黒陽麻が、正崎の新しい検察事務官として配置される。
「裏の新域構想」を良くは思ってないが、それ以外は気にならない感じで。
なぜ、「裏の新域構想」を知った上で、こんなに早く調整できたのか?
こんな危険な事件を扱うのに、女性で、法務事務次官の姪を配置して良いのか?
原作では、組織の内部にいるものとして、当然疑問に思う心情描写が描かれます。
ただにわかに引っかかったのは”裏の事情”を通した事務官をこの短時間に用意できたことだった。
無数の違法行為の果てに作られた「裏の新域構想」に真実を知った上で絡むというのは、いわば犯罪の片棒を担ぐようなものだ。法の番人である検察庁の職員がそれを納得したのか、それとも守永からの圧力で仕方なく従事しているのか。もしくはそこをさほど問題視していないのか。いったいどういった性状の人間が来るのかに一抹の不安はあった。
だがそんなことを気にしていられる状況でもない。使える人間は一人でも貴重だ。高望みはしない。並で十分だ。
by 『バビロン』小説2巻より
アニメではあまり触れられてませんが、検察はアグラス事件など”表の事件”で手一杯。
検察事務官が余っているわけではありません。
そんな中、「裏の新域構想」を知らされ事情を理解した事務官が来るというのです。
誠実かつ優秀な人間などを融通できるはずがないと正崎は考えたのです。
つまり、法務に詳しいかもしれないが、曲者か、優秀ではない人間が来ると思っていたのです(笑)。
ところが、そこに現れたのは女優のような女性で、瀬黒法務事務次官の姪。
正崎の中で事情が想像された。なるほど、と心中で頷く。
瀬黒法務次官は新域構想に深く関わっている中心人物の一人だ。その親戚筋ならば無縁の人間よりも事情を通しやすいし、以降のコントロールも楽になるだろう。それならばこの短期間で人を用立てられたのも納得できる。
by 『バビロン』小説2巻より
女性キャラを登場させたほうが作品として盛り上がる、ではなく、きちんと法務次官の姪だから事情を説明しやすかったと理由付けをしているのは好感が持てますね。
さらに、女性だということにも触れてます。
アニメ観賞時、ちょっと「イラッ」ときました。
どうして危険だと分かっている任務に女性を配置するのだと。
#瀬黒が嫌いなわけではないですよ
だが、それとは別の問題もある。
「ですが守永さん・・・」
そう口に出したところで、正崎は思い止まって口をつぐんだ。今自分が考えたことは単なる差別だと気付いたからだった。
-中略-
もしかすれば検察内部からもさらに犠牲者が出るかもしれないような現場に、法務次官の親戚筋の、未だ年若い、女性の事務官を配置して良いのか。正崎はほとんど反射的にそう考えてしまっていた。そしてそれは、明白な差別だった。
次官の親戚でなければ死んでいいのか、若くなければ死んでいいのか、女性でなければ死んでいいのか。
文緒や奥田は死んでよかったのか。
そうではない。死んでいい人間などいない。ならば瀬黒事務官をこの事件から特別に外す理由はない。検察事務官である以上は、出自も年齢も性別も関係なく一人の同僚だ。
by 『バビロン』小説2巻より
『バビロン』がこと検察庁に関してはリアリティを持って描いていただけに、若い女性をこのような事件に配置するのはいかがなものかと私も思ってました。
が、その考え自体も瀬黒にとっては失礼なこと。
捜査権限と起訴する権限が与えられている検察で仕事をする検察事務官はそういう仕事なのです。
私だけかもしれませんが、どうしても”危険な仕事”は警察。
検察と言ったら、法律で戦う、頭脳戦のイメージが。
だから、今回のような仕事は特殊であって、その特殊な仕事なだけに女性をつけて良いのかと考えてしまいました。
政治家汚職、企業犯罪を捜査する東京地検なら荒事があるのも想定内なのですね。
気持ちいいほど説明がされていて、納得しました。
原) 瀬黒 立会事務官の評価
アニメでも、瀬黒の有能さは端々に出てきますが、原作では正崎の心情描写で評価がされています。
最初に出会ってから、2時間。
つまり早朝5時に着任し、齋が声明を発表する7時までに既に高く評価しています。
#この勤務時間がまず凄いですが(苦笑)
瀬黒陽麻立会事務官は有能だった。正崎が処理しきれずに溜め込んでいた雑事を二時間ほどでまとめ上げ、物読みと検討に集中できる環境を作り上げた。正崎は新たな相棒の優秀さを素直に喜んだ。文緒はもとより、奥田と比べてもさらに手際が良い。
-中略-
検察内部でも初動の混乱が続く中で、この若い事務官がすでに事件の骨子を分解して対応を始めていたのは驚くべきことだった。正崎は先ほど持ってしまった偏見をもう一度恥じた。間違いなくトップクラスの検察事務官だった。
by 『バビロン』小説2巻より
平松絵見子(曲世愛)を事情聴取していた時に、一時的に立会事務官として配置された奥田。
原作では奥田に関する評価も正崎の心情描写で描かれ、高く評価されていました。
だけど瀬黒は、その奥田よりも手際が良く、対処も理解も早い。
正崎は、検察事務官は能力で評価すべきであって、出自や性別などで判断してはいけないことをここで再び恥じるのです。
原) 域法は素早い法令施行が可能に
アニメ観賞時、「自殺法」「域議選挙」と次々と簡単に施行するのに違和感を感じてました。
議会がまだないから早いのか、アニメだから事務処理をカットしているのか・・・
原作ではその辺にも触れられてました。
「域法には地方自治体の条例規定を超える運用の幅が与えられています。まず法令の施行が他の自治体と比べて非常に高速です。これは地方自治体における《専決処分》の権限を強化したものです」
by 『バビロン』小説2巻より
「専決処分」
議会の議決なく首長自ら案件を処理できる制度。
ただし、専決処分された事項については、後日議会で承認を得る必要がある。
これが一定のブレーキになる。
だが新域は違う。
新法制の実験場として用意された新域では、新法制定の速度をより早めるための制度設計が行われている。『域法の制定は、基本的に全て専決処分に当たる処分方法《掌決(しょうけつ)》によって行われる。
議会はそれを後追いで承認するために開催される』
新域では首長の裁量が他の自治体に比べて圧倒的に大きくなっていた。つまり首長に就任した齋開化が新たな域法を独自に発令したこと自体は何ら違法性が認められない。
by 『バビロン』小説2巻より
域法の新法は全て専決処分、つまり域長の判断で施行できるのです。
だから、次から次へと齋が域法を施行できるのです。
さらに・・・
そして通常のスキームならば、この後は齋の新法を承認するかどうかの議会が開かれるはずなのだが。
by 『バビロン』小説2巻より
ところが、まだ新域には議会がない。
これもまた、”裏の新域構想”が裏目に出たというか、齋に利用されたのです。
通常、首長選挙と議会議員選挙は同日に開催されることが多い。だが新域の立ち上げでは、その選挙日が三週間ずらされていた。理由は・・・
-中略-
元々の構想によれば、齋開化の当選から議員選挙までの間に、事前準備の整いきらなかった分の法制を《掌決》によって発布してしまう予定だった。
もちろん議会があっても《掌決》は行えるが、無いうちならばより話は簡単になる。齋当選から域議選挙までの三週間のタイムラグを利用して、システムを自分達の好きなように構築してしまおうというのが新域構想中枢部の思惑だった。
by 『バビロン』小説2巻より
なんとも、皮肉というか、うまい展開に仕立て上げていますね。
アニメ観賞時は、随分簡単に齋が新法を施行するのをみて、少し非現実的、フィクションだから仕方ないか、と思ってました。
が、原作ではきちんと理論武装されています。
アニメでは、尺の関係上と、法的な説明をしているとテンポも悪くなるので省略したのでしょう。
原) 報告はするが上下関係はない
アニメ観賞時、正崎が、野丸と瀬黒法務事務次官の会食に参加して、かなり打ち解けていたので随分信頼されたものだと思ってました。
原作を読むと少し解釈が違ったようです。
「今更かしこまるな。座れ」
野丸が座椅子の一つを指す。正崎は言われた通り、かしこまることもなく席に着いた。野丸は年長者であるし、新域構想に関してはある意味で協力する間柄になってしまったが、元々は政治家と検事という間柄で、上司でもなければ部下でもない。
by 『バビロン』小説2巻より
正崎から見て、別に野丸は、クライアントでも上司でもないのです。
だから堂々としていたのです。
上下関係ではなく、協力関係となり、お互い情報交換をする場だったわけですね。
警察も検察も法に則って動く捜査機関である以上、法的に不明瞭な状況では行動が著しく制限される。正崎自身が今ある程度自由に動けているのは、”齋開化に対する専従捜査員”という裏の事情によるものであり、特捜検事の大多数はこの巨大事件に対し身動きが取れていなかった。守永がこの場に来ていないのも、”表の仕事”にかかずらわってのことだった。
by 『バビロン』小説2巻より
法律上問題のない齋を検察が堂々と動くわけにはいかない。
なので、特捜部長の守永も、この会席に出席できなかったのです。
特捜部長の動きは注目されますからね。
原) 九字院との信頼関係
アニメでも正崎と九字院との信頼関係はよく分かりますが、原作では更に正崎の心情描写で描かれます。
口にはしませんが(笑)。
「どうも」
多摩警察署警部補・九字院偲は、毎日会っている同僚のような気安さで言った。「待っていた」
正崎の顔には自然と笑みが浮かんできた。九字院との付き合いは短い。初めて会ってからまだ一ヶ月というところだ。だがこの数週間、《裏の新域構想》の一連を共に追いかける間に、正崎は九字院に対して全幅の信頼を置くようになっていた。それは戦友と呼ぶのにも近い感覚だった。
by 『バビロン』小説2巻より
1巻のレビュー で書いたように正崎と九字院はこの事件で知り合いに。
短い間に信頼していったのです。
そして、文緒のことや、軽口を言える数少ない相手なのです。
原) 「モデル」VS「アイドル」
九字院と瀬黒の初対面、原作ではもっと会話がありました。
面白い会話なので紹介しましょう。
「でもま、余計な気遣いだったかな」九字院が瀬黒に目をやる。「えらいべっぴんさんをお連れで」
瀬黒は精密な礼と共に官職と名を告げた。
「モデルさんみたいな人ですねぇ。なんでまた事務官なんぞに」
「失礼ですが」瀬黒は淡々と答える。「アイドルのような風貌の警察官に言われる筋合いはありません」
正崎はクッと笑ってしまった。確かに九字院は刑事と言うには線が細く、ジャニーズのアイドルのような顔をしている。言われた九字院の方は面食らっている。
「なかなかきつそうなお嬢さんですね正崎さん」
「だが文緒の5倍使える。10倍かもしれない」by 『バビロン』小説2巻より
原作では、九字院と瀬黒の間にこんな会話があったのです。
このやりとりは、アニメでも見たかったーー
原) 寅尾管理官も相当重要
少し遡りますが、寅尾管理官の初登場シーン。
「裏の新域構想」のことを知らず、最初は大丈夫なのかと思いましたが、理解は早い。
原作を読むと分かるのは、寅尾は守永部長お墨付きの現場のたたき上げ。
特に、人望。
寅尾管理官は上からは時には疎まれるが、下からの人望があるタイプ。
警察から見れば部外者の正崎が、最も必要としている能力。
正崎は守永に感謝しています。
結果、集まった捜査員23名は・・・
その23人の顔つきを順番に眺めて、人数の少なさとは真逆の安心を覚えていた。寅尾が集めてくれた人材は皆どこか癖のある顔をした。良い意味でも悪い意味でも”独立”した人間だと感じる。
-中略-
《裏の新域構想》
違法行為を多数含んだ選挙の陰謀。それをすべて知った上で、齋開化の捜査班に加わってもらうことができるのか。それがこの特別捜査班の最初の難関だった。
-中略-
その正崎の方針を実現するために絶大な力を発揮したのが寅尾管理官だった。
寅尾は本庁刑事部に所属する数百人以上の人間の中から、裏の事情を飲んでくれるような人材を選りすぐってくれていた。もちろん中には納得しきれない人間もいただろう。そういった人間を説得して人員に引き込めたこともまた、ひとえに寅尾という管理官の人徳によるものだった。正崎は得がたい人間と出会えたことに深く感謝する。
by 『バビロン』小説2巻より
アニメで、正崎を外見とセリフと表情から判断すると、淡々と仕事を進める能率重視の人間に見えますが、原作の心情描写を読むと、とても人と状況を分析していることが分かります。
そして、出会った人に対して感謝も忘れていません。
原作を読むと、主人公・正崎のことをもっと好きになりました。
そして、瀬黒、寅尾管理官のことも・・・
原) 自殺教唆の勝算は8割あると見ていた
捜査本部を発足し、齋の自殺教唆を捜査。
捜査の進展は全くなく空転。
想像はしてましたが、結構熱い感じで捜査開始していたので、少しは期待していたのですが(苦笑)。
原作の正崎の心情描写では、最初の目論見も書かれてました。
庁舎からの自殺者は64人と多く、中には十代もいれば老人もいる。そういった”脇の甘い”人間達までをコントロールして完全な証拠隠滅を図るのは不可能に近い。自殺に至るまでのやりとりも一朝一夕で終わるものではないだろうし、掘れば掘っただけの証拠が出ると見立てていた。勝算は8割と見ていた。
by 『バビロン』小説2巻より
確かに、64人もの自殺希望者を集められるわけはなく、何らかの自殺教唆、強要があったと想定するのが自然。
であれば、どこかに隙があり、どういう方法で教唆されたのかの痕跡が見つかると踏んだのだ。
状況をみると、当然の考えです。
原) 筒井警部補の捜査を引き取ったのは・・・
アニメ観賞時、違和感を感じた部分。
曲世を追っている筒井警部補からの報告で、いきなり正崎がその先を引き取った。
論理的な説明はなく、私情を挟んでいるようにも見え、違和感を感じてました。
原作ではきちんと説明されており、引き取った理由が分かりました。
「(詳しいことまでは。)同級生とトラブルがあったとかなんとか。で、それからしばらく病院に通っていたそうです。(どこの医者かもわかったのですが、残念ながらそこも閉院してまして。)どうしましょう。こっちの方は洗います?」
正崎は僅かに考えてから答えた。
「それはこちらで引き取ろう。(ツテがある)」
※()内がアニメではカット
by 『バビロン』小説2巻より
筒井は、曲世が通院した病院が閉院していたので、どうするか指示を仰いだのです。
そして、正崎は、医院や医者の行方を探るなら、警察より検察の方が早いと考え、引き取ったのです。
そのツテは、もちろん情報収集能力に長けたDF(デジタルフォレンジック)のことです。
原) とてもいい感じの投票サイト
原作では、曲世の「よくないデータ」を取りに行った際、ネット選挙のサイトについて意見を交わしています。
これがまた興味深いことを言っているのです。
域議選挙のインターネット頭領のサイトを見ながらDF室の三戸荷事務官は言う。
「いい感じの作りだね。これ」
-中略-
今回の域議選でもメジャーな会社に依頼されてるね。ただこのサイトと投票要領を見てると、その会社にしては思い切った作りだなと思ってさ」
-中略-
「シンプルというか。ニュートラルというか」
-中略-
「ITの技術が高いということですか」
「技術、というか思想かなこれは・・・。世界に対するスタンスの問題だと思うよ。世界を管理しようとしてない。世界は何もしなくても正しい結果になると信じてる。そんな」話が難解になってきて正崎は難しい顔をした。デジタル的なことを聞いていたはずなのに、いつのまにか哲学のような内容になっている。
by 『バビロン』小説2巻より
域議選で使われるインターネット投票サイトの作りの話をしているのですが、私には、どうも齋の思想が反映しているような気がしてなりません。
『バビロン』は、大事なことをなんでもない箇所に入れ込んでますから(苦笑)。
齋が目指しているのは、何も管理されない世界なのか?
原) 電子投票で票の操作は可能か?
原作では、正崎が気になっていたことをぶつけます。
今回の域議選挙は電子投票もできます。
この電子投票で、票の操作が可能かどうかを。
三戸荷事務官の答えは・・・「できるが、やらない(意味がない)」
その心は、
「100%不正不可能なシステムなんて無い。
-中略-
それに選挙はシステム外との絡みもあるから」
「システム外?」
「普通の投票と、あと出口調査とか」-中略-
「これだけ話題の選挙なら、投票日は各局で報道するだろうし出口調査もやるでしょ。電子投票の結果を改ざんしたら、リアルの投票結果と大きな差が出ちゃう。つまり票操作はあくまで気持ち、手心程度ならやれちゃうかもだけど」
by 『バビロン』小説2巻より
技術的には、不正は可能だが、大きな操作をしたら疑いを持たれる。
ましてや、今「自殺法」賛成は2%。
それを数倍したとしても、さほど意味はなく、過半数の50%まで不正をするとバレバレだと言うのだ。
不正行為をしても影響を与えることができないなら、バレるリスクを考えると何もしないだろうという推測。
なるほど、とても論理的。
それ以外にも、前項目で述べたサイトのポリシーからも不正はなさそうだと三戸荷事務官は言い切ってます。
「自殺法」云々と曲世を使ってやっていることは非道ですが、選挙等は真摯に執り行っているようなのです。
理解できなくはないですが、このアンバランスが、引っかかるんですよねーー(苦笑)
おわりに (原作小説『バビロン』2巻とは)
1巻同様、2巻最初の話数となるアニメ4話は、原作に照らすとかなりハイペースでした。
かなりカットされています。
知らなくても影響のないシーンもありますが、知っているとより作品を楽しめる箇所があったので、本レビューで取り上げました。
原作は小説です。
小説は正崎の一人称で描かれているので、彼の心情描写がアニメよりもずっと多く描かれてます。
原作を読むと、正崎が人をとてもよく見ているのが分かります。
検事という職業病でもあるのでしょう。
人の性状、内面、立場、周囲との関係性を分析する箇所が結構あります。
人の見方、捉え方、というのはとても勉強になりますね。
いや~~面白い。
以上、『バビロン』原作小説2巻のレビューでした。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
原作2巻の続き部分のレビューも書いているので良かったらご覧ください。
ではでは。
自殺は違法か、専決処分、今回も法律の勉強なった
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アニメ『バビロン』5話のレビューはこちら。
小説『バビロン』2巻②(アニメ5話相当分)のレビューはこちら。
『バビロン』レビュー 一覧はこちら。