こんばんは。時文(@toki23_a)です。
TVアニメ『バビロン』第7話「最悪」を鑑賞しました。
本レビューは小説『バビロン』2巻の感想レビュー(4/4)です。
今話の原作
原作2巻は、TVアニメ4~7話に相当。
本レビューではアニメ7話に相当する部分を対象とします。
作品レビュー 一覧
話数 | サブタイトル | 原作巻数 | ページ数 | 原作R |
第1章 「一滴の毒」 | ||||
第1話 | 疑惑 | 1巻 | 136P | 1巻① |
第2話 | 標的 | 93P | 1巻② | |
第3話 | 革命 | 83P | 1巻③ | |
第2章 「選ばれた死」 | ||||
第4話 | 追跡 | 2巻 | 128P | 2巻① |
第5話 | 告白 | 49P | 2巻② | |
第6話 | 作戦 | 72P | 2巻③ | |
第7話 | 最悪 | 53P | 2巻④ | |
第3章 「曲がる世界」 | ||||
第8話 | 希望 | 3巻 | 56P ※ | 3巻① |
第9話 | 連鎖 | 67P | 3巻② | |
第10話 | 決意 | 79P | 3巻③ | |
第11話 | 開幕 | 93P | 3巻④ | |
第12話 | 終 | 50P | 3巻⑤ |
話数:リンクは各話レビューへ
原作R:リンクは各原作レビューへ
※:8話前半は先の部分が元ネタ。そのページ数(7P)を含む
話数 | レビュー |
全体 | 【ネタバレあり】感想レビュー |
はじめに
本レビューは「アニメ」⇒「原作小説」の順で見た「原作の解説・感想レビュー」です。
アニメではカットされたシーンや、原作との違いを取り上げます。
アニメはアニメならではの良さがありますが、キャラクターが考えている事や感情の描写はどうしても情報が少なくなります。
原作小説は主に正崎一人称で描かれ、心情描写がとても丁寧に描かれています。
正崎の内面を知ると、より作品を理解できます。
原作の魅力を全て伝えることはできないと思いますが、少しでも作品理解の助けになれば幸いです。
原作小説の情報量は、想像していたより膨大でした。
私が取り上げたのはごく一部で、原作にはもっと楽しめる箇所があります。
アニメとは違う魅力があるので、アニメ鑑賞後でも楽しめます。
オススメです!
- アニメでカットされた原作部分
- アニメオリジナルシーン
- 原作を読んで分かったこと
見出しの頭にアニメオリジナル、原作のみの記号を記載したのでご参考に。
- ア):アニメオリジナルシーンに関する記述
- 原):アニメではカットされたシーンに言及
では、小説の内容順(時系列順)に紹介していきましょう。
原作感想レビュー (TVアニメ第7話 相当分)
ア) 瀬黒の分析はアニオリ
野丸が「自殺法」否定を支持するために連れてきた子供は、齋の子供だった。
齋の演説が終わり、完全に逆転した状況を、アニメでは瀬黒と正崎が分析していますが、これはアニメオリジナル。
原作では正崎の心情描写として描かれてます。
もっと踏み込んでいるので紹介しましょう。
「くそ!」
正崎が苛立ちをこぼした。5分前と状況が大きく変わっていた。
テレビの中では野丸が反論を試みているが、その表情は苦痛に喘いでいる。全ては齋の”仕込み”だった。
少年の動画がアップロードされた時から、齋はこの結末までを完全に予測していたのだろう。齋と少年の話の虚実は解らない。もしかするとすべて本心からの言葉なのかもしれない。だが結果だけを見れば、齋は野丸達が少年を利用して作った熱を見事に掠め取った。否定派が丁寧に準備してきた布石を、最後の一手で綺麗に反転させてしまった。
この放送で選挙の結果は大きく変わるだろう。もちろん否定派がそう簡単に逆転されるとも思えない。だが選挙前に予想されたような大差、95対5のような結果からは完全に脱却したと感じられた。この後0時を回るまでの間に、齋に感化された肯定派の泡沫候補が続々と現れるだろう。齋にとっては候補の質など関係ない。肯定派が多数当選したという結果さえ出ればそれでいいのだから。
by 『バビロン』小説2巻より
アニメの正崎と瀬黒の会話は、この心情描写を元ネタにしています。
興味深いのは、正崎が「『少年が動画をアップロードした時』から、齋がこの逆転劇を描いていた」と推測していること。
事実かどうかは分かりません。
しかし、作者が正崎を通じて示しているので、可能性が高い推測だと思います。
となると、齋はこの逆転劇を実行するために──
- 息子が動画で訴えていたのを知っても、息子本人には何も話さなかった
- 自殺法否定の子供の動画が拡散されても何も対処しなかった(原作情報)
- 野丸が子供を連れ出すことを予想して、公開討論を仕掛けた
- 公開討論の放送(域議選挙前日)後でも域議選挙に立候補できるようにしていた
- 公開討論後でなければ投票できないよう「期日前」投票はなかった(原作情報)
いや~~実に凝ってますね・・・
敵ながらアッパレです。
原) 瀬黒が行くと言った時、正崎は・・・
経路警備の半分と連絡が取れなくなったとき。
「何か起きている」と感づいても良いはずだが、アニメでは、重要視してないように見えました。
瀬黒をすんなり現場に確認に行かせてましたから・・・
ちと酷い判断だな、と感じましたが、これは原作通り。
ただ正崎は、原作では異常に気付き、もう少し悩んでます。
ましてや「大丈夫、妻子班には九字院が付いている」などと”ここでは”言ってないし、楽観してません。
「指揮車より妻子班、どうぞ!」
返事は。
なかった。九字院と連絡がつかないという事実が、正崎にははっきりと異常を認めさせる。
“何かが起きている”。「正崎検事」瀬黒が素早く動き出す。無線機をスーツに留めてイヤホンを耳に嵌める。
「確認に行きます」正崎は一瞬考える。確かに瀬黒はこういう時の予備人員でもあるし、指揮を執っている自分はここを離れられない。護衛班は散らせない。経路警備の不具合を確認に行くのは瀬黒がベストだ。
だが迷いがあった。何が起きているのかわからない不安が瀬黒への指示を止める。
そしてその正崎の逡巡が論理的なものではないことも、瀬黒は全て見抜いている。
瀬黒の揺らぎない目が正崎を強く射貫いた。正崎は諦めてゴーサインを出した。瀬黒事務官は指揮車から飛び出して局内へと向かった。
by 『バビロン』小説2巻より
心情的には瀬黒一人を行かせたくなかったのが読み取れます。
だが、これまで散々反省していたように、それは瀬黒に対しての差別。
若い女性がなぜ、こんな危険な事件の事務官として配置されたのか。
という若い女性に対しての差別(4話 )
法務事務次官の姪だからコネもあるのだろう、ベテランの検事でも把握できてない事件を若い瀬黒が把握できてるはずがない。
という偏見(4話 )。
これらはシーンは、今回のこの場面で、瀬黒を一人の検察事務官として扱わなくてはならないという状況を作り出す伏線となっていたのです。
#アニメではそこまでは分かりません。
だから正崎は瀬黒を引き止めることはできなかったのです。
なんとも辛い。
通常なら、捜査本部外の警備班と連携。
もしくは監視カメラをあちこちに設置して、あくまで指揮車で状況を把握。
という方法を取っていたでしょう。
が、今回は齋を”拉致”するのが目的。
だから、捜査本部以外の人に見られてはいけない、カメラも目撃者もないように誘導経路等の準備を進めてきたのが仇となったのです。
この作品は、相手が築いたものや準備したものを逆手に取るのが、憎たらしいほど巧いですね・・・
原) 九字院の思いは伝わった?
九字院が自分の足を撃ってまで、正崎の元へ来て、伝えたかったこと。
正崎はその場を逃げずに曲世に向かって行くが、九字院の言葉は通じなかったのか?
そんなことはないと思っていたし、九字院の必死の思いは通じたと思いたかった。
原作にはその時の心情も書かれています。
「全部中止して逃げるんですよ・・・一刻も早くこの場から逃げるんですよ・・・。捕まえようなんて思っちゃいけねぇ、これから二度と関わっちゃいけねぇ。ありゃあ、人間が相手にできるもんじゃねぇよ・・・」
「にげ・・・」正崎は絶句する。「何を言っているんだお前・・・?そんなことが」
「分かってくださいよ、正崎さん」九字院の拳が引きちぎらんばかりにシャツを掴んだ。
「あたしとあんたの仲でしょうが」九字院は感情だけで言った。それで正崎には十分過ぎるほど伝わっていた。
九字院ほどの男が、何の説明もできないまま情に訴えている。説明も理屈もかなぐり捨てて、ただ逃げろと言っている。それがどれほどの異常事態か解らない正崎ではなかった。逃げろというのは関わるなというのは、きっと正しい。
だが理性がその結論を拒む。何を信じればいいのかわからなくなる。
by 『バビロン』小説2巻より
九字院の必死の訴えは、正崎にも伝わり、正崎は彼の言う事を信じてました。
それが正しいのだろうと。
が、特捜部検事としての正崎の正義感が、信念が、その結論を拒むのです・・・
原) 瀬黒を見つけられなかったのはまるで違う所にいたから
九字院が自殺し、正崎が瀬黒や捜査員を探しに行く。
アニメ観賞時、違和感があったのは──
- 誘導経路は分かっていたので、逆に辿っていけばつぶせただろうになぜ見つからなかった?
- なぜ、大ホールの舞台裏なんて通るルートを、経路に選んでいた?
ということでした。
原作を読んで分かりました。
正崎は、まず拉致計画の目的地の車の場所へ行き、そこから逆順に経路を辿っていきます。
それでも見つからなかったのです。
瀬黒、寅尾管理官、そして曲世は、予定していた経路とはまるで違う所にいたのです。
「どこにいる、場所を」
「NHC大ホール、舞台裏です」正崎は顔を歪めた。握り締めていた見取り図を開く。
NHC大ホールは局の建物を出て、広大な敷地の一番端にある。正崎が居る本館17階からは平面的にも立体的にも対角線の場所に位置している。
「3分で着く」正崎が階段を逆向きに走り出す。
by 『バビロン』小説2巻より
そして、その後の状況報告でも。
20メートル離れた場所に人が集まっています。寅尾管理官含む護衛班6人と、齋開化の妻です。齋開化本人はいなくなっています。管理官達が話を聞きながら手帳にメモを取っています。なぜか進行表をはずれて、妻の聞き取りをしているようです・・・
by 瀬黒陽麻 検察事務官『バビロン』小説2巻より
そうです、これも知りたかった。
「齋開化本人はいなくなってます」
アニメでもこの場面では齋が描かれてなかった。
寅尾管理官ら捜査員と曲世だけだった。
原作を読んで分かりました。
齋開化は既にいなくなっている。
にも関わらず、指揮車に報告もせず、経路も外れ、齋の妻の聞き取りをしている・・・
明らかに寅尾管理官らは、曲世の影響下にあり操られているのです。
経路と違う場所にいるのは、齋を別のルートから逃がした後だからか、それとも、管理官たちを自殺させるので人気の無いところに曲世が連れ出したのか・・・
いずれにせよ、正崎が簡単に見つけることができなかった状況だったのです。
原) 瀬黒が逃げられなかったのは・・・
瀬黒が曲世に気付かれた時、なぜ逃げなかったのか?
原作には、逃げ道がなかったことも書かれてました。
瀬黒にとっては選択肢がなかったのです・・・
- アニメ7話
-
瀬黒:いいえ、気付かれました。
正崎:なら、逃げろ!今すぐだ!
瀬黒:管理官達と協力して曲世愛を逮捕します。
正崎:やめろ!命令だ!
瀬黒:切ります。
by 『バビロン』TVアニメ7話
- 原作小説2巻
-
「気付かれました」
「なら逃げろ!今すぐだ!」「出口は向こうです」瀬黒の声の震えが収まる。声に意思の芯が通る。「管理官達と協力して曲世愛を逮捕します」
「やめろ!!命令だ!!」
正崎は全力で叫んでいた。もはや理屈ではなかった。屈強な捜査員が6人いる、正崎を簡単にのすほど武道に長けた事務官がいる、相手は女一人。
そういう当たり前の計算が、もはやなんの説得力も持たない。
by 『バビロン』小説2巻より
瀬黒も曲世を直で見て、論理的ではないが禍々しさに気付いた。
恐怖で震えが止まらなかった。
気付かれ逃げる選択肢もあったかもしれないが、逃げる出口が曲世の向こう側だったのです。
逃げることも簡単ではないと判断したので、意を決し、曲世確保に向かったのです。
ア) 瀬黒が角材を手に取るのはアニオリ
瀬黒が正崎との無線を切った後、近くにあった木材を手にとります。
これはアニメオリジナル。
原作小説は、正崎の一人称で描かれているので、正崎が見えない部分は描かれません。
「抵抗された場合は有形力を行使します」
そこで無線が途切れた。
by 瀬黒陽麻 検察事務官『バビロン』小説2巻より
「有形力」
物理的な力。
殴る蹴るなど、物理的な暴力のこと。
原作で描かれているのは、このセリフだけ。
瀬黒は剣道四段の有段者。
拳銃を持ってない瀬黒が「有形力の行使」と言えば、木材を武器にしようとしたのでしょう。
曲世は武器を持っている様子はなかった。
が、見るからに”禍々しい(まがまがしい)”相手に躊躇している余裕はなかったのです。
いい追加シーンでした。
できれば曲世を確保して欲しかったのですが・・・
いや、逃げることを最優先して欲しかった・・・
原) 正崎は瀬黒を捜索するよう訴えるが・・・
事件後、アニメでも正崎は、この事件は集団自殺なんかではないと警察に訴えていた。
しかし、正崎自身、かなりの時間曲世を追いかけても、九字院の話を聞くまで、曲世の特異性を信じることはできなかった。
他の職員が信じられるはずもない。
また、寅尾管理官がいなくなったのも痛い。
こういう時の調整は寅尾管理官が上手いのだが・・・
原作では、正崎は「正常な状態ではない」と判断されてしまってます・・・
拉致被害者の身柄を無事に取り返すためには初動こそが最も重要となる。正崎は駆けつけた警察に全ての情報を伝え、緊急配備を敷いて曲世を追い込んで欲しいと訴えた。
だがそれは実現しなかった。
正崎の主張は、全てを頭から信じて動くにはあまりに客観性を欠いていた。
「曲世愛という女が、一人で警察職員24人を殺害し、検察事務官を拉致して逃走した」
それは「わかりました」と頷くには荒唐無稽に過ぎる話だった。正崎はそれを説得できるだけの材料を持っていなかった。齋の拉致という極秘任務のために、寅尾が他部署との情報共有を最小限にしていたのも裏目に出た。
-中略-
24人はどう見ても自殺としか言えず、そしてそれは事実だった。曲世という殺人鬼が魔術めいた方法で皆殺しにしたという正崎の認識は、甚だ現実と乖離していた。
それでも正崎は警視庁の担当者を説得すべく必死で言葉を尽くした。瀬黒事務官を取り戻すための都内全域への緊急配備を求めた。叫び訴える様は半狂乱にも近いものだったが、それが逆に担当者を頑なにさせてしまった。
今の正崎は地検特捜部の検事という以上に、《集団自殺事件の生き残り》であった。
所属していた捜査班が正崎以外全員死亡しているという状況は、現場の刑事に《正崎は正常な精神状態ではない》と判断させるのに十分なものだった。
by 『バビロン』小説2巻より
正崎は完全に「正常な精神状態ではない」と判断。
瀬黒が拉致された確固たる証拠を示すこともできず、彼女は「行方不明」として扱われたのでした・・・
悲し過ぎますね・・・
原) 中継中に何かできなかったのか?
胸くそ悪い曲世の中継シーン。
一矢報いて欲しかったが、一方通行のストリーミングではこちらからは何もできなかった。
でも何か手を打てなかったのか?悔やまれます。
原作では、混乱する中で頭を回転させてます。
「聞こえてる?正崎さん?」
曲世は首を傾げた。やり取りなどできない。それはただの一人喋りだった。正崎は混乱の中で必死に頭を回す。中継から居所を辿れるのか、デジタル的な方法で、DF室、三戸荷に連絡を、いや夜中の三時だ、ならまずは警視庁に、
「ねえ、正崎さん」
曲世の呼びかけに正崎が止まる。行動と思考を阻害され、画面に引き寄せられる。
by 『バビロン』小説2巻より
なんと、夜中の3時だったのです。
#アニメでは午前7時でした。
それでも、接続する前に何か仕込めなかった悔やまれます。
曲世の性格です。
正崎が接続しなければ、見ている人がいなければ、行動をしなかったのではないか・・・
ま、そんなことを言っても仕方ないのですね。
アニメ同様、悔しさと嫌悪感一杯の2巻ラストでした。
おわりに (原作小説『バビロン』2巻とは)
問題のアニメ第7話「最悪」。
文字だけしかないのですが、原作小説も終盤は最悪でした。
正崎の心情が描かれるだけに余計に辛い・・・
心の中が描かれなくても、アニメでも正崎の感情が充分伝わってきましたけどね・・・
さて、ここからどう盛り返していくのか。
辛い展開なので、続き見たくない気持ちがありながら、ここで止めてしまっては余計に気分が悪い。
リベンジ、事件解決、正義が勝つのを見ないと納得できない。
そんな気分で読み進めてます。
3巻こそは一矢報いて欲しい!
以上、『バビロン』原作小説2巻のレビューでした。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
原作3巻のレビューも書いているので良かったらご覧ください。
ではでは。
文字で読んでもきついな・・・
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